FORM TECH REVIEWvol27
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モード発振が観察された. この発振特性は,ロッドの熱レンズ効果と熱複屈折性を考慮したレーザー共振器の安定性ダイアグラムを用いて説明できる (Fig. 7).熱レンズ効果 (f) を持つ共振器の安定発振条件は,|(1-dRM/fTM, TE)(1-dOC/fTM, TE)| ≤ 1となる.ここで,YAGロッド熱複屈折性によりfは常光線 (方位偏光成分: TE) と異常光線 (径偏光成分: TM) とで異なり,fTE/fTM ~ 1.2であった.一方,Iの増加とともに熱レンズのfは小さくなり,共振器の安定条件はダイアグラム上を遷移し,その経路は共振器構成によって決まる.共振器の安Fig. 6 dRMが200から600 mmの時(上図および600から1000 mmの時(下図)のレーザー出力.挿入図:TM01モードビームの全強度(左)および直線偏光板を透過した後の強度分布(右). Fig. 7 TM01およびTE01モードに対する光共振器の安定性ダイアグラム.. 定条件が境界を跨ぐ領域では,熱複屈折性に起因してTE01とTM01モードの安定性に差が生じ,いずれかのモードのみが安定となる領域が存在する.このように,ロッドの熱効果を利用することで,TE01およびTM01モードの選択的発振が可能であることを明らかにした. このようにして選択発振した径および方位偏光ビームの出力は共振器に依存するものの,30W以上の値が得られた.本方法では,共振器ミラーやロッドなどは全く同じであっても,共振器長を選べば,径偏光と方位偏光を自由に選択できる.また,最大の出力が得られるように調整することも可能である. 5.ベクトルビームによる穴開け加工 これまでに述べたベクトルビームは連続発振である.微細加工を行う場合にはピコ秒やフェムト秒のパルスレーザーがより適していると考えられるが,現在までにモードロック等によるパルス発振は試みていないものの,光ファイバー増幅においては,パルスの種光があれば同様の方法で増幅することは可能であると考えられる. 一方,直線偏光の超短パルス光源はよく利用されているが,偏光変換素子を用いてベクトルビームに変換することは容易であり,現在われわれはこの変換法を用いたフェムト秒ベクトルビームによる穴開け加工実験を試みている. ベクトルビームによる穴開け加工の場合,穴内部での反射が高いため,径偏光ビームよりも方位偏光ビームの方が有利であると推測されている.しかし,材料やレンズなどによって相異なる報告がなされており,いまだ,共通した認識が持てない状況である.われわれは,異なる開口数を持つ対物レンズを使用して,複数の材料に対するベクトルビームの穴開け加工実験を進めている. 開口数が小さい場合は,ベクトルビームよりも,むしろ直線偏光ビームの方が,加工速度が速く,また,径偏光と方位偏光との間に優位差は見られなかった.これは,焦点でのスポット径に大きく依存していると考えられる.しかし,大きな開口数のレンズでは,試みたすべての材料に対して,明らかに方位偏光ビームが優位であることが認められた.これより,穴内部での反射回数が多いほど方位偏光ビームによる加工速度が速いと考えることができる.また,方位偏光ビームの優位性は,吸収の大きな材料に対しても認められている.これらの結果は微細な穴開け加工におけるベクトルビームの偏光の効果を示しており,偏光選択による効率的な加工が期待される. 6.あとがき ベクトルビームにはスカラービームにはない優れた特徴があり,われわれは超解像顕微鏡とレーザー加工を中心として応用研究を進めている.これらの応用に対して,ベクトルビームの特性を十分に生かし切るような性能を持つ光源の開発に対する課題はまだ多い.実用性を考慮すると,半導体レーザーなどの安価で高品質なレーザー媒質が- 53 -

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