FORM TECH REVIEWvol27
52/100

強度分布偏光分布削削除除ししなないいででくくだだささいい 現在レーザープロセッシングに使用されているレーザービームのほとんどは,直線・円偏光あるいは無偏光であり,ビームのどの位置でも同じ偏光状態を有している.これらのビームはスカラービームとも呼ばれる.これに対して,ベクトルビームと呼ばれる,空間的な偏光分布が不均一である光ビームが存在していることは古くから知られていたものの,研究が活発になったのはごく最近のことである1).ベクトルビームの応用としては、荷電粒子の加速や超解像顕微鏡の他に,高効率性と精密加工性を兼備した次世代プロセッシング用レーザー光源としての利用が期待されている.その理由は,ある種のベクトルビーム(Fig. 1の経偏光ビーム)を物体に垂直に集光した場合,全ての光線がp偏光となるため,反射率が小さく,従って材料に吸収される光エネルギーの割合が高くなるためである.また,強く集光した際にはスポットサイズが小さくなることから,精密微細加工にも適していると考えられている.前述のように,ベクトルレーザービームに関する研究の歴史は浅く,現在文献的に報告されている径偏光レーザーのほとんどは品質や安定性の点で十分であるとは言い難い.従って,レーザープロセッシングに使用できるような高品質・高安定・高出力ベクトルビームの開発は急務となっている.我々はいくつかの新しいベクトルビーム発生方法の開発に取り組んできているが,本稿では,レーザープロセッシングでの使用に適するような出力・安定性・品質を併せ持つベクトルビーム開発に関して,天田財団助成によって得られた成果と,その後の進展について報告する.偏光分布が空間的に均一である光ビームは,スカラー波動方程式の解として得られ,Hermite-GaussやLaguerre-Gaussビームがよく知られている.また,非回折ビームとして知られるBessel-Gaussビームや,楕円座標系の解として知られるInce-Gaussビームもスカラービームの例である.これに対して,電場の空間分布が不均一である場合には,電場をベクトルとして考える必要があり,光ビームはベクトル波動方程式の解となる.これまでにいく写写真真位位置置 1.まえがき2.ベクトルビームの特徴*東北大学 多元物質科学研究所 教授つかの解が見いだされている.最初に報告されたのは,Bessel-Gaussビームであるが,これはスカラーのBessel-Gaussビームとは異なっていることに注意する必要がある.両者とも強度分布はBessel-Gauss関数で表わされるものの,後者の場合.電場は方位方向に対して,複雑な振る舞いを見せる.この他,Laguerre-Gauss型および変形Bessel-Gauss型の強度分布を持つベクトルビームも見いだされている.これらの中で最も簡単な偏光分布をもつものが,径(ラジアル)偏光および方位(アジマス)偏光ビームである.Fig. 1に示すように,径偏光ビームは電場が放射状に分布しているのに対して,方位偏光ビームは,方位方向に分布している.どちらの場合も,強度分布に注目するとともにドーナツ型で,数学的には全く同じである.光軸上で強度がゼロになるのは,光軸上は偏光の特異点であることに起因している.特に,径偏光ビームは強く集光した場合,焦点付近では強い軸方向電場が発生するため,Gauss型の強度分布を持つ直線あるいは円偏光ビームに比べ,さらに小さなスポット径が得られる.また,物質表面に対して垂直に集光した径偏光および方位偏光ビームでは,すべての光線がそれぞれpおよびs偏光となる.径偏光ビーム(radially polarized beam)方位偏光ビーム(azimuthally polarized beam)Fig. 1で示した,径および方位偏光ビームは光ファイバー内を伝搬するLP11ビームとほぼ同じである.またベクFig. 1径および方位偏光ビームのビーム断面での強度および偏光分布S. Sato- 50 -次世代プロセッシングのための次世代プロセッシングのためのベクトルビームの開発ベクトルビームの開発佐藤 俊一*佐藤俊一Review

元のページ  ../index.html#52

このブックを見る