*大阪大学 名誉教授天田財団による『FORM TECH REVIEW 2017』の発刊は、レーザ加工分野としては第3回目になります。天田財団は、1987年に現アマダホールディングスの創業者である天田勇氏の私有資産の寄附を基に財団法人天田金属加工機械技術振興財団として設立され、金属等の塑性加工分野における研究助成が開始されたのが始まりです。そして、2007年からレーザプロセッシング分野の研究に対しても助成が始まりました。その後、2011年に公益財団法人天田財団として内閣府に認定され、今日に至っています。2017年に天田財団創立30周年となることから、その記念事業の一環として、2015年から3年間、重点研究開発助成A(グループ研究;最大助成額2000万円)および重点研究開発助成B(個人研究;最大助成額1000万円)が加えられ、一般研究開発助成の採択件数の大幅な増加も図られました。一般研究開発助成は今後も続くことから、レーザプロセッシング分野の研究の更なる発展と大きな成果を期待しています。従来、天田財団の研究開発助成の成果については、毎年、助成期間終了後にまとめて「天田財団助成研究成果報告書」として出版されています。レーザ加工分野の研究成果に関しては、天田財団の記念事業を機に、2015年度から、1991年より塑性加工分野の成果を発表されてきた「FORM TECH REVIEW」に一緒に掲載させていただくことになりました。2007年から2014年までの8年間に131件の成果報告書が作成されていましたので、その中からいくつかの成果を選定し、それらの成果に最新の情報も加味して、掲載していくことにしました。今回の『FORM TECH REVIEW 2017』では、レーザ装置開発とプロセッシング開発において興味深い開発研究を選出して掲載しています。まず、レーザ装置とビームモードに関連して、ファイバレーザでの径偏光レーザビームの発生とその高出力化への取組み、フェムト秒レーザ加工光学系の空間特性を補正するための計算機ホログラムの光学系内の設計とホログラフィック時空間レンズによる波長分散補正手法の開発、中赤外2.8 µm帯でレーザ利得が得られるEr添加フッ化物ガラスファイバに着目して開発された狭スペクトル幅ファイバレーザ、Qスイッチパルスファイバレーザおよびモード同期ファイバレーザに関する検討結果が報告されています。そして、レーザ加工に関連して、50 µm厚のガラス箔においてレーザ微細屈曲加工や3次元形状の成形が可能であることを示した結果、ビーム径の異なるパルスYAGレーザまたはシングルモードファイバレーザをガルバノスキャナで高速に走査してステンレス鋼箔の微細レーザ溶接特性について比較検討した結果、セラミックスと金属の異材レーザブレージングにおいて活性金属の酸化防止や良好な接合を実現するための雰囲気中の酸素濃度の上限を明確にした結果などが示されています。また、フェムト秒レーザで誘起させた表面微細構造を有する金属材料の試験片の常温接合結果や近赤外フェムト秒レーザで誘起される非線形光吸収を利用して得られた3次元Cu微細構造の直接描画形成の検討結果が報告されています。さらに、種々の短パルスレーザを用いて炭素繊維強化複合材(CFRP)の切断を行い、切断品質に及ぼす各レーザの影響について比較評価した結果が示されています。以上のように、天田財団の研究助成では広範囲の成果が得られていることがわかります。ところで、最近のレーザプロセッシングの関連では、ファイバレーザや半導体レーザの高パワー化と低価格化、フェムト秒レーザの応用開発、銅の安定な溶接や3D加工のための高パワーブルーレーザやグリーンレーザの開発、レーザ溶接においては、スパッタを低減させるためのファイバレーザと半導体レーザを重畳させたレーザの開発、発振器から出射されたビームをファイバで調整したり、集光光学系(DOE:回折光学素子)で調整したりする加工に適したビームモードの開発、OCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層像)を利用するレーザ溶接時のキーホール深さ計測法の開発、溶接時の観察・モニタリング装置の開発、金属とプラスチックやCFRPのレーザ接合技術の開発などが行われています。読者各位は、本誌『FORM TECH REVIEW 2017』の成果に興味を持たれ、世界のレーザプロセッシングの動向にも注視され、天田財団の研究助成に応募されるなどの積極的な行動を起こされ、今後の世界のレーザプロセッシング分野をリードするような大きな成果を挙げられ、この分野の発展に寄与していただきたいと思います。- 47 -説苑プロセッシングのためのレーザ開発と加工法の高度化片山 聖二*S. Katayama
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