3・2各応力状態での成形限界へ及ぼす応力緩和効果図9に各幅を有する板厚0.08mmの試験片における変形後のドットの観察画像を示す.試験片の幅を変えることでドットの変形挙動が変化していることから,異なる応力状態を得られたと言える.図10に,これらのドットから成形限界ひずみを算出しプロットした結果を示す.成形限界は,単一応力状態であればひずみは比例的に増大する.全応力状態において,応力緩和を利用したモーションによって加工した際のひずみは,ノーマルモーションと比較して,おおよそ比例的にひずみが増大していることから成形限界が向上したものと考えられる.また本実験ではネッキング部のひずみを用いていることから,最大主ひずみがより顕著に表れる.そこで最大主ひずみ(縦軸)に着目すると,幅4mmから20mm,つまり単軸から等二軸応力状態に近づくにつれ,複合化による成形限界の向上効果がより増大していることがわかる.さらに各試料における破断挙動を明らかにするために,図11に示すように試験片破断面を走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscopy) によって観察した.ここで,特に違いが顕著である単軸および等二軸応力状態における,ノーマルおよび複合モーションによって加工されたサンプルを観察した.その結果,等二軸応力状態ではノーマルモーション時において脆性的な破面が観察されるのに対し,複合モーション時では,ディンプルを全面的に有する延性破面が観察された.一方,単軸応力状態では,元々脆性破面が占める割合も少なく,図9変形後のドットパターンの様子図10板厚0.08mm材の成形限界図図11板厚0.08mm材は断面のSEM観察写真複合モーションによりディンプル数のわずかな増大が確認できる.等二軸応力状態では,本試験片は転位密度が高いH材であることに加え,二軸応力によって転位のすべり面が交差し,転位が堆積しやすいため,過度な加工硬化が生じていたと考えられる.そのため,ノーマンモーション時は割れによる脆性的な破面が生じるものの,複合モーションによって堆積した転位を拡散し加工硬化を抑制することで,延性を促し成形限界が向上したと推察できる.一方,単軸応力状態では,等二軸応力状態よりも転位の堆積量が少なく,ノーマルモーションにおいても適度に延性を有していたため,応力緩和の効果が低かったものと考えられる.3・3応力緩和による成形性向上効果の板厚依存性図12 (a), (b)に,異なる板厚を有する試験片を等二軸および単軸応力状態で加工したときの最大主ひずみの結果を示す.板厚0.05mmの試験片では板厚0.08mmとは逆の傾向で,単軸応力に近づくほど成形性が向上している.一方,0.03mmの板厚では幅10mmの平面応力状態も含め明確な傾向は得られなかった.そこで図13に示すように,最も変化が大きいと考えられる条件の試験片の破断面を観察した.板厚0.05mmでは複合モーション時に板厚が大幅に減少しており,板厚0.03mmのときには応力緩和の有無にかかわらず脆性的な破面が支配的であった.これらの現象は,加工に伴い発生する自由表面あれによって説明できる.金属箔材の加工では,板厚に対する表面粗さの割合が増大するため,表面あれを起点とした破壊が生じやすくなる7).そのため板厚0.05mmの試験片では,加工硬化しやすい等二軸応力に近づくほど,表面あれを起点とした割れの発生が促進され応力緩和効果よりも支配的となったため,成形性向上効果が小さいと考えられる.一方,単軸応力状態では,等二軸応力状態よりも加工硬化が生じにくいため,表面あれを起点とした割れが抑制されたと考えられる.さらに,転位堆積量の少ない単軸応力状態においても,マイクロ圧縮試験の結果で示唆したように,板厚減少に伴- 18 -
元のページ ../index.html#20