FORM TECH REVIEWvol26
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*中部大学工学部機械工学科 教授鍛造やプレス加工などの塑性加工は、素材に形を与えて、その製品を機械産業へ供給する重要な役割を担っています。我が国の塑性加工製造業は、中小企業が主体であり、その需要を主に自動車産業に依存しているのが実情です。この自動車産業がその生産拠点を海外へシフトしていることから、鍛造業を例にとると、他の素形材産業と同様、グローバリゼーションの中で、国際競争力の維持・強化が大きな課題となっています。我が国の鍛造業は、技術改良・開発、業務合理化を推進するなど大いなる努力を行い、精度、品質の面で世界のトップレベルの位置までに到っています。日本で先行した精密鍛造技術に欧米も必死で近づいてきており、ドイツでは、国レベルでものづくりの重要性を理解し、この分野に対する支援も積極的になっています。日本では科学技術の重点テーマとして、材料加工、製造技術が軽視されている感があり、できるだけ早く技術開発の重要性を認識しないと、手遅れになる恐れもあります。現在、中国をはじめ東アジアの勢いがますます大きくなっている中で、我が国の鍛造業は、競争力を維持するためにコストダウンを実現する様々な試み、製品の差別化を図る技術開発が進められてきていますが、これらは、中小鍛造業にとって余りにも大きな課題であり、企業はこれに全エネルギーを集中しているといっても過言ではありません。経済産業省では、中小企業等経営強化法などにより、素形材産業の中小企業・小規模事業者や中堅企業の生産性向上を集中支援することで「稼ぐ力」を発揮しつづけられるよう対策が始まっています。次世代が産業構造の変革の中で生き残り発展するためには必要なことと思います。「モノのインターネット(IoT ;Internet of things)」、「インダストリ4.0」や人口知能(AI)等の技術を各分野におけるビジネスモデルと結びつけ、製品の高度化、高付加価値化、新たな製品需要を創出する技術開発を進めていくことが重要なことと考えます。本誌『FORM TECH REVIEW 2016』の塑性加工分野では、「金型の最新技術動向」を特集し、これまでの金型に関係する各種の興味深い研究テーマの中から幾つかを抽出して掲載しております。塑性加工にとって金型は、製品の精度、機能、コストに直結する重要なアイテムであり、コスト低減のためには金型寿命を延長することが必要です。例えば、冷間鍛造では、面圧と寿命との関係があるので面圧を下げる工夫がなされています。また、熱間鍛造では、金型の損傷を引き起こす負荷因子として、機械的負荷と熱的負荷に分けて考えることができます。機械的負荷は、被加工材から受ける面圧と金型-被加工材間の相対すべり速度等が挙げられ工具摩耗や塑性変形を引き起こします。また熱的負荷は、金型-被加工材間の摩擦発熱、被加工材からの熱伝達およびヒートチェックなどが挙げられ金型強度の低下や熱衝撃による割れを引き起こすと考えられています。つまり、熱的負荷は金型強度の低下および熱疲労などの影響をもたらし、機械的負荷は金型損傷進展の駆動力として作用します。 熱間鍛造においては,熱的負荷と機械的負荷の影響が重畳され損傷が発生します。具体的には,熱的負荷により金型強度が低下し、さらに軟化した金型表面に機械的負荷が加えられて摩耗が発生するといった損傷プロセスが考えられています。したがって、長寿命化のためには、加工温度と加工速度を制御することで金型表面温度を管理して成形しなければなりません。金型材料、表面処理方法、潤滑方法などの開発も必要で各方面から開発が進められています。本誌にもその関係の研究成果がいくつか掲載されており、参考になれば幸いです。天田財団は、今までの研究助成を通じて多くの研究者をサポートし、多くの有益な成果を公表してきました。今後も当財団の研究助成を積極的に利用していただき新たな成果を創出していただくとともに、助成研究を通して若い研究者の育成に利用いただけたらと思っています。当財団の公益的事業の推進に一層のご助力をいただければ幸甚です。- 7 -説苑塑性加工による新たな“モノづくり”への期待石川 孝司*T. Ishikawa

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