天田財団ニュース No18
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研究室訪問4東京都立大学 システムデザイン学部清水 徹英 准教授東京都立大学・清水徹英准教授授の研究テーマ「超ハイテン用金型に向けた高靭性アモルファス窒化ホウ素膜を実現するイオン化PVD法の開発」が、天田財団の2024年度「重点研究開発助成」に塑性加工分野で採択された。 現在、世界の国・地域では気候変動対策として、温室効果ガスの排出規制が強化されている。各種排出量の目標数値を達成するためには車体の軽量化が必須となる。構造部材には1.8GPa級の超高張力鋼板(以下、ハイテン材)の使用比率を高める必要があり、面圧負荷の高いプレス加工にも耐えうる次世代の金型開発が急務になっている。この開発には金型表面の高強度・高靱性・低摩擦化のために、摩擦熱の発生にも耐えうる硬質薄膜材料の適用が求められる。 従来の表面改質技術の限界を超える革新的な薄膜材料としては、ダイヤモンドに次ぐ硬さと、1300℃程度までの高温耐熱性を備えた「立方晶窒化ホウ素」(以下、c-BN)という化合物が注目されてきた。だが、c-BN相の形成にはさまざまな技術的課題が多く、応用研究が進展せず、産業化に至っていなかった。特に金型などの表面に成膜しようとしても、基材との密着性が低下してすぐに剥がれてしまう従来技術の限界を超える薄膜材料を形成する 東京都立大学 システムデザイン学部の清水徹英准教ことが産業化における足かせとなった。その大きな要因として、薄膜を形成するプロセスに由来して、膜中に大きな残留応力が発生してしまうという構造的な欠陥があった。ため、c-BNを構成するホウ素や窒素原子自身により、イオン衝撃を起こして、金型などの表面に硬質薄膜材料をコーティングできる可能性に着眼した。その手段として「大電力パルススパッタリング法」(以下、HiPIMS法)と呼ばれる技術を応用した研究開発を進めてきた。 c-BNの形成にはさまざまな製膜手法が試みられてきたが、その一手法として、B4C(炭化ホウ素)という固体原材料を気化させながら窒素ガスを導入する、反応性スパッタリングと呼ばれる真空技術によって薄膜が形成される。 HiPIMS法では、この固体原材料へ高パルス電圧をかける。そうすることで高密度のプラズマが発生し、ターゲット基材を構成する元素となるホウ素や、雰囲気に存在する窒素も、プラズマと反応してイオン化することが明らかになっている。このイオン化現象を活かした蒸着方法は、対象物に対する蒸着粒子の制御性が高まるという長所がある。材料加工・薄膜工学の分野では「イオン化PVD法」と呼ばれており、注目が高まっている。 HiPIMSの技術を応用することで、高硬度と平滑性、化学的安定性など、ハイテン材用金型への適用に対して極めて魅力的な特性を持つ「高靭性アモルファス窒化ホウ素膜」の形成に成功している。ただし、残留応力の低減という観点では、まだハイテン材のプレス加工に耐え得るレベルには達していない。 この点をクリアするために、同研究室のメンバーは、プラズマの内部に含まれる粒子・イオンの種類や運動エネルギー条件に関する分析・検証を行い、薄膜材料の形成とその特性にどのような影響をおよぼしているかを解明しようとしている。薄膜の残留応力を最小化しながら、BN(窒化ホウ素)の立方晶相を成長させる最適な条件とは何なのかパラメータを切り替え、薄膜形成の謎を解明 清水准教授の率いる研究室はこれらの課題を解決する12超ハイテン材用金型開発のカギを握る、硬質薄膜材料の形成産業界と積極コラボ、大学発スタートアップも設立

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