❶❶❷❷❶金属イオン含有ガラスにCWレーザーを照射するCO2レーザ装置/❷シリカとホウ酸の成分を含んだガラスにCWレーザを照射し、ガラス基板の内部まで加熱する/❸CWレーザーによって溝が加工された「遷移金属イオン含有ガラス」❸❸がほとんどであり、腐食が進むと使い捨てにされている。 一方、シリカガラス基板を用いれば、多孔質の領域を「溶液が通るライン」に充て、均質な領域は「溶液を貯める仕切り」にするといった構造を、レーザを照射して自在に作成できる。このようなマイクロリアクタなら、腐食しにくいガラスの性質を活かしつつ、低コストで作成できると富田助教は見込んでいる。 なお、ガラスをレーザで熱加工したのち、冷却を施すプロセスでは、熱膨張割れを起こしやすいという課題がある。そこで専用のヒーターを作成し、ガラスを温めながらレーザを照射することで、熱膨張割れを防ごうと試みている。23再エネ領域などで、社会実装を目指す 多孔質の領域と、均質な領域を併せ持つガラス基板を、産業用途に耐え得るレベルで作成するには、均質な領域の分布を明確に定めたり、多孔質領域の孔の大きさを局所的にきめ細かく制御する必要がある。そのためには、レーザ照射によって生じるガラス基板の温度場の変化を、正確に把握しておかねばならない。 「レーザ照射によってガラス基板が高温になり、粘性の低い融液に近づくと、熱伝導率や比熱など、基板の物性が大きく変化します。その際、原子が熱を持って振動するだけでなく、光による輻射熱伝導という要素も考慮せねばなりません。そこで今回の研究計画では、ガラス基板の内部で光がどう通るのか、熱がどう吸収されていくのか、そして熱と光がどういう割合で温度変化に影響をおよぼしているのかを解明していきたいと考えています」(富田助教)。 これらを解明できれば、レーザ照射によるガラス加工工程の精密化が一気に進展する。その結果、1枚のガラス基板上に、より多様な細孔径や気孔率を持つ領域をつくり分けられるようになる。富田助教はまずレーザ加工の精密化を達成したうえで、社会実装のターゲットとして、再生可能エネルギーの領域を視野に入れている。具体的には、多孔質体組織の部分に光触媒の機能を持たせ、太陽光を利用した水の浄化や、水素の製造が効率的にできる、革新的な太陽光装置を実現しようとしている。「オンリーワン」の強みを活かす 富田助教が所属する矢野・岸研究室では、矢野哲司教授、岸哲生准教授、および富田助教の3名の教員と、2名のテクニカルスタッフ、2名の秘書が、博士課程4名、修士課程12名、学部4年生7名の教育・指導にあたっている。このため、富田助教も学生たちの教育・指導に多くの時間を費やしている。研究・教育と多忙な中、富田助教は、2025年1月から約半年間、産休の取得を予定している。 「これから先の10年は、研究者にとって大事な期間だと認識しています。ですから、どのようにして出産や育児との折り合いをつけていくかが、今の私には大きなテーマです。幸いにして、諸先輩の女性研究者が大学に対してさまざまな働きかけをしてきてくれたおかげで、最近は大学からのサポートや、産休・育休支援の制度などが拡充されつつあります」(富田助教)。 たとえば東京科学大学では2024年度より、女性研究者の産休期間中に、アシスタントを雇う人件費を支給するプログラムが新たにスタートした。 日本には大手のガラスメーカーから、特殊なガラスを受託生産する町工場に至るまで、多くのガラス関連企業が存在する。そのすそ野は広く、各社が特色のある製品を手掛けている。ガラスの用途も、放射性廃棄物の固化処理や、折りたたみ式スマートフォンのデバイス、さらには6Gの通信規格に不可欠な先端半導体のパッケージングなど、ハイレベルな分野に広がっている。 「したがって大学での研究も、より多様な観点からガラスを考察し、実験を重ねていく必要があります。研究者の数がもっと増えれば、テーマや研究方法のすそ野が広がり、より多面的なアプローチで、ガラスのポテンシャルを高められるはずです。私はこれまで、さまざまな学会に参加してきましたが、金属イオンなどの添加成分を熱源としたガラス基板のレーザ加工に取り組む研究者に出会ったことは、まだありません。おそらく、世界のどこにも存在しないでしょう。このオンリーワンの強みを活かしながら、日本におけるガラス研究を支える一翼を担っていきたいです」と、富田助教は抱負を語った。
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