*1ガラスの中にレーザを吸収させる因子として添加している、ニッケルイオンや銅イオン *2金属材料における、結晶領域の構造*3一辺あたり1㎜以下の大きさの空間で、複数種類の溶液を混ぜて化学反応を行う装置東京科学大学の富田夏奈助教大学で、レーザ照射によるガラスのマイクロ加工、シリカガラス基板のナノ・マイクロ構造の制御などの研究を続けた。2023年に博士課程を修了して博士(学術)の学位を取得。2023年4月からは同大の物質理工学院 材料系の矢野哲司教授の研究室で助教として活動している。22研究室訪問3東京科学大学 物質理工学院 材料系富田 夏奈 助教スイスへの留学を通じて、材料研究の真のおもしろさを実感 東京科学大学 物質理工学院 材料系の富田夏奈助教の研究テーマ「遷移金属イオン含有ガラスのCWレーザーに対する光吸収機構の解明」が、天田財団の2023年度「奨励研究助成(若手研究者)」にレーザプロセッシング分野で採択された。 富田助教は「高校時代、化学の教科書を見ていたとき、物質が原子から構成されていて、元素の種類を変えるだけでモノの性質が変わることが、とても“目新しい”と感じました。これが、無機材料を勉強したいと思ったきっかけでした」と話す。2014年に東京工業大学(現・東京科学大学) 工学部 無機材料工学科に入学。セラミックスについての勉強に取り組む傍ら、さまざまな産業に使用されているガラスに興味を持つようになり、学部4年生からはガラス研究室に所属した。 修士課程1年のとき、先生に勧められて大学に籍を置いたまま、スイス連邦工科大学に半年間留学。フェムト秒パルスレーザによる石英ガラスの加工を専門としている研究室で、博士課程の学生や研究者とのやり取りを重ねる中で、「研究の真の楽しさを実感した」という。 修士課程修了後は就職より博士課程を選び東京工業自作のガラス基板に、CWレーザを照射する 富田助教は研究対象のガラスを市販品で賄うのではなく、ガラス基板の成分から自前で設計し、パウダー状の原料を電気炉に入れて、研究室内で作成している。原料の比率を変えたり、添加する遷移金属イオン*1の種類を替えることで、ガラスの性質を自在に変えられる。この自作体制が、研究活動の強みにもなっている。 今回採択された研究テーマ「遷移金属イオン含有ガラスのCWレーザーに対する光吸収機構の解明」で扱うガラスは、シリカとホウ酸を添加したものである。この2種類の成分を含んだガラスにCWレーザを照射し、ガラス基板の内部まで加熱する。すると、原子レベルの構造変化が起こり、元の基板材料が水と油のように2層に分離して、ナノ組織*2を形成できる。このような物質を形成している組織が二つに分離した状態を「分相」という。分相状態にあるガラスの、一方の相だけを酸に漬けてエッチングすると、シリカは残ってホウ酸だけが溶ける。これを取り出して洗浄すると、たくさんの孔が空いたガラス=多孔質状態のシリカガラス基板が作成できる。 富田助教がこれまでに行った研究では、レーザで照射した箇所にはナノ組織のない均質なガラスが作成でき、レーザ照射を行っていない箇所は多孔質状態になった。結果として1枚のガラス基板上に、孔のない均質なガラス領域と、均質ではない多孔質の領域を併せ持つ加工を施すことに成功している。 多孔質シリカガラス基板は、産業界での活用が期待されている。そのひとつは、バイオテクノロジーの分野などで使用されているマイクロリアクタ*3である。現在、マイクロリアクタの素材は、加工コストの高いガラスではなくプラスチック製先端分野に広がるガラス産業に貢献レーザ照射による温度場の変化を明確にし、実用に足る多孔質ガラス基板を作成
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