天田財団ニュース No17
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❶❶研究テーマの一つである「ロボットハンド」❷❷❶注射針と蚊の針の太さの比較。針の太さが細いほど痛点に振れる確率は低くなり、患者の負担軽減につながる/❷青柳教授が作成した、医療用プラスチック製中空微細針に回転を加える専用の穿刺デバイス それに対して、蚊はまったく皮膚をたわませることなく口針を穿刺でき、血管を変形させることなく口針を刺し入れて吸血できる。そして観察により、皮膚への穿刺に際して、蚊が針を往復回転(正負方向の交互回転)させていることを突き止めた。そこで、蚊と同じように針を回転させて血管にアクセスし、そこから必要量のみ採血すれば、痛みの低減が期待できると考えた。 予備実験として人工皮膚に直径0.1㎜の針を蚊と同じ180rpmの回転速度で穿刺したところ、穿刺抵抗力が大きく低減し、皮膚もくぼまないことが確認できた。金属製より安価に製造できる点も利点です。顧客需要に合わせて針の直径や長さが調整できるようにすることを目指しています」(青柳教授)。21生分解性プラスチック材料の成形加工を活用 青柳教授は光造形、フェムト秒レーザなどの微細加工技術を駆使し、マイクロニードルの作製を行ってきた。そして、針を回転させることが大きな効果を持つことを解明した。これを工学的に実現させるには、回転する針をベアリング(玉軸受け)で支える必要があるが、現行の最小のベアリング内径は1㎜。このため針はシャンク(柄)部分を外径1㎜でつくる必要がある。この径から先端径である、0.06㎜まで外径を絞ることは金属加工では不可能だ。しかし、樹脂の成形加工であれば絞りが可能となる。 そこで、本研究では生分解性プラスチック材料の成形加工により、蚊と同じ微小なサイズの中空針を作製した。また、金型構造を工夫し、針先端まで樹脂が充填され、かつ芯材となるピン(あとで離型し針の中空部を形成する)が偏心したり折損したりしない最適な成形条件を探索した。そして、携帯型の針の往復回転穿刺装置に、作製した微細中空針を取り付ける。この装置を用いて、人工皮膚・動物皮膚への針の穿刺、血液の吸引実験を行い、針の信頼性も含めた性能評価を行った。 「本研究が目指している世界最小の中空微細針(採血/注射に利用可能)は、外径が従来の世界最細の市販針の半分以下の0.06㎜で、生分解性プラスチック(体内で分解吸収される)製、血管に届く長さ(約2㎜)で、曲げても折損することはないというものです。生分解性プラスチック製とニッケルチタンから注射針をつくる塑性加工技術の開発にもトライ 蚊を模倣した無痛針の研究は、青柳教授のオリジナル。 「研究の初期において、ポリ乳酸の射出成形により、皮膚に突き刺して微量な血液を噴出させる糖尿病患者用の注射針を開発しました。これをベースとした針を大学発ベンチャーの㈱ライトニックスが2012年から市販しています。蚊を模倣したギザギザ状の突起を先端側面部に付与することで、皮膚との接触抵抗を減らして痛みの軽減を目指しています。ただし、針のサイズが幅0.4㎜(厚さは0.1㎜)と大きく、ばねを用いて針を瞬間的に皮膚に突き刺し血管・痛覚神経を含む広範囲にダメージを与えます。蚊と同様に低侵襲に血管にアクセスし、皮膚組織を破壊することなく血液を吸引することが望まれています」(青柳教授)。 青柳教授は今後、現行のステンレス注射針の代替として、超弾性の性質を持つニッケルチタンから注射針を創生する新しい塑性加工技術の開発にもトライしていきたいと考えている。

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