天田財団ニュース No17
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関西大学の青柳誠司教授20研究室訪問2関西大学 システム理工学部 機械工学科青柳 誠司 教授蚊の口針を模倣した「マイクロニードル」の開発  天田財団の2018年度「一般研究開発助成」に塑性加工分野で採択された関西大学 システム理工学部 機械工学科の青柳誠司教授の研究テーマ「蚊の針のサイズを追求した中空マイクロニードルの微細成形加工」は長年、ロボット・マイクロシステムなどを研究してきた青柳教授が、ナノ・マイクロメートルスケールの3次元微細構造の創成技術とバイオミメティクス技術の融合による新学問分野の確立、医療デバイス、メカトロニクス・ロボティクス関連のデバイス開発への応用を進める中で実施してきた研究開発テーマである。青柳教授は「低侵襲性の無痛針」を実現するため、蚊の口針を模倣した「マイクロニードル」の開発を目指してきた。 青柳教授がこの研究を思い立ったキッカケは、「痛みが少ない注射針」が医療の現場で望まれていることを知ったことにある。注射器は病気の治療や予防にあたり欠かすことのできない医療用品の一つである。しかし、あのチクリとした痛みが嫌で、できれば打つのを避けたいと思う人が多い。そんな人々の気持ちに応えたいと考えたのが発端となっている。医療現場で望まれている「痛みが少ない注射針」 人の皮膚表面には1㎠あたり100〜200個の痛点が分布している。そのため注射針が細ければ細いほど、痛点に触れて痛みを感じる確率は低くなる。たとえば、糖尿病患者は1日数回血糖値検査のために採血を行い、その値に基づいてインスリンを適量皮下投与しなければならない。このため注射針による皮膚穿刺の際、痛みをともなう。針を細くすることで痛点を避ける試みが多数行われてきた。 これまでに市販されているものとしては日本の医療機器メーカー、テルモ㈱の「痛みの無い注射針(外径0.18㎜)」がある。この注射針は、東京下町の岡野工業㈱が開発したもの。金型から極薄のステンレス薄板を抜いて段階的に曲げてパイプ状にする独自の手法で製作されており、2012年には外径を0.18㎜にまで細くした製品がリリースされた。針を往復回転させることで、穿刺抵抗力を低減、皮膚のくぼみも解消 青柳教授はまだ痛みを軽減させる余地があると考え、研究を継続した。人間は蚊に刺されても痛みを感じない。これは蚊の針の直径が0.05〜0.06㎜と現行の注射針に比べて細いこと(前記テルモ社のものに比べて外径1/3以下、断面積で1/9以下)、およびその刺し方に原因があると考えた。 血糖値検査においては、ばねを用いて針を瞬間的に皮膚に突き刺し、にじんでくる血液を採取している。血管をある程度の範囲でランダムに破壊して出血させるのではなく、蚊と同様に浅い血管にアクセスし、そこから必要量のみ採血すれば、痛みの低減が期待できる。生物(人間、動物)の皮膚は硬い角質層の下に表皮・真皮があり、それらが極めて柔らかい皮下組織のうえに乗っているという多層構造をしている。このため、針を刺すと角質層を貫けずに皮膚が大きくたわみ(くぼみ)、なかなか針が刺さらない。血管も針に押されて変形し、なかなか血管壁に針を刺し入れることができない。蚊の口針を模倣したマイクロニードルを開発「痛みが少ない注射針」の開発を目指す医療の現場で望まれている

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