天田財団ニュース No17
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高温高速多段圧縮実験装置高ひずみ速度付与試験装置題の解決への動きが社会の変化を促していく中で、学会の活動はどうあるべきかを議論しています。が薄くなります。また、ロールの変形が板に転写されることもあるので、これらの解明を目指し、変形・負荷特性を解析シミュレーションで精密に求めることを意図してシステムをつくりました。そうして1990年には乏しい計算資源でしたが、板圧延の高精度化を解析できるようになったわけです。さらに、棒鋼、線材、異形形鋼などへの汎用性を持ったシステムへと進化させていきました。この研究は私の研究の中では一番大きなバックグラウンドになっています。 ほかの研究者も言われていますが、私も「優れた良い研究は30代までにしかできない」と思っています。私の場合だと30代の前半までだったと思います。27歳で学位を取得し、その前に大学院は5年、学部も含め9年所属していましたが、研究者として自立できたのは27歳。そこから後の10年弱の経験が非常に重要な背骨になりました。学会としても若い研究者をしっかりサポートして、プロモートしていく必要があります。プロモートして若い研究者にも学会活動に参画してもらう。そういう良循環を構築していくところから始めていきたい。 天田財団でも若手研究者枠を設けて研究助成をしていただいていますが、ここはもっとしっかりと助成してもらいたいと思っています。1414Interview■「優れた研究は30代までしかできない」―柳本先生はどのようにして塑性加工の研究分野に入られたのですか。柳本 私は1989年3月に27歳で学位論文を合格としていただき、カッコがない時代の「工学博士」となり、同年4月からは東京大学 生産技術研究所の講師に任官しました。当時、東京大学をはじめとして多くの大学工学部には、塑性加工の研究教育を行うために、教授がいて助教授、講師、助手というように階層別の講座制があって、自身の研究よりも、教授から指導・指示された研究テーマを研究する場合が多かったと思います。 ところが、大学院時代から在籍していた東京大学 生産技術研究所には講座制がなく、研究者はそれぞれ独立した自分の研究室を持って、研究テーマを自分で考えなければなりませんでした。当時の指導教授の木内学先生からは大きな自由度を与えてもらい、研究を進めました。また、同じ研究所には切削から塑性加工まで幅広い分野を研究する中川威雄先生が在籍しておられました。木内先生から研究テーマを探すためのアドバイスをいただき、私が選んだのがシートメタル薄板の圧延加工プロセスを有限要素法(FEM)によって3次元解析して変形・負荷特性を解明するというテーマでした。 2年後には「数値圧延機CORMILL System」の最初のバージョンを研究成果としてリリース。以後、バージョンアップをしながら、変形・負荷特性の解明に成果を上げ、30年経った現在でも圧延加工プロセス設計・孔型設計におけるツールとして広く利用されています。 ただし現状では、圧延加工時の塑性変形とともに圧延材の温度変化に関する数値解析は不可能で、課題として残されています。薄板を圧延すると板幅方向に見たとき場所によって板厚が異なることがわかります。普通は板のエッジ■若い研究者のプロモートを積極的に推進―これからの研究の担い手である若い学生会員の数が伸び悩んでいます。塑性加工学を学ぼうという若い学生についてはどのような働きかけを考えていますか。柳本 そもそも会員数の減少で学会の財務が悪化していますが、この主な理由は個人会員の数の減少にあります。減少にはまだ歯止めがかかっておらず、今後の学会の活動やこの活動を通じて塑性加工に関する学術の進歩・向上に寄与することが、大いに危ぶまれる状況にあります。前述しましたが、会員数を増やすための施策は以前から熱心に取り組んできました。最近では、以前から存在していた学生会員から個人正会員への資格変更時の会費減免措置

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