❶❶❶各種の手術支援ロボットが設置されている研究室/❷人工膝関節置換手術の支援ロボットについて説明する光石先生/❸人工膝関節❷❷学生たちへのエールを笑顔で語る光石先生❸❸ 2023年3月末には世界で7,779台の内視鏡手術支援ロボット「ダビンチサージカルシステム」が稼働、日本では2023年6月時点で600台が使われている。 しかしながら、医療現場に導入されている低侵襲手術支援ロボットは、泌尿器科や腹部などの内臓系を主な対象としている。脳神経外科などの狭所・深部において非常に繊細で高度な手術を行うには、個別技術の小型化や高性能化に加えて、手術ロボットシステムとしていかに要素技術を統合するかが大きな課題となっている。光石先生らの研究成果により、高度で困難な手術へのロボット手術適用の可能性が大きく広がった。121212さまざまな手術用ロボットを開発――海外との遠隔手術にも成功 「手術用ロボットには、低侵襲・無菌状態で手術できる、感染のリスクの低減、精度が高い、微細や狭い場所での手術や遠隔手術が可能といったメリットがあります。すでに低侵襲腹腔鏡下手術、深部脳神経外科手術、人工膝関節置換手術の支援ロボットのほか、大腿骨骨折の治療で脚の位置を正確に動かすための整復ロボットや手の外科手術において手首にある舟状骨の骨折を整復するための穿刺ロボットなども手がけてきました」。 「低侵襲腹腔鏡下手術支援ロボットは、鉗子用2本と腹腔鏡用1本の計3本のアームがあり、執刀医は腹腔鏡の映像を見ながら操作するというもので、現在までにタイ・バンコクと日本、韓国・ソウルと日本を結んだ遠隔手術にも成功しています。深部脳神経外科手術支援ロボットは、患部をハイビジョンカメラで撮影し、それを執刀医が立体視ビューアで確認しながらリーダー・マニピュレータを動かすと、患部にある鉗子のついたフォロワー・マニピュレータが動きます。直径0.3㎜の血管を糸付きの針で吻合したり、通常の手術では難しい10㎝ほどの深さにある脳腫瘍を摘出したりすることができるようになっています。鉗子の径が小さくても強度を上げられるよう、材料や設計をさらに検討することが必要です」(光石先生)。「何かをつくりながら試行錯誤を重ねることは、何よりも勉強になる」 光石先生は2022年に東京大学を定年退職したあと、同年4月から帝京大学 先端総合研究機構の特任教授に就任した。研究室には人工膝関節置換手術の支援ロボット、内臓系手術支援ロボットも設置されており、日本学術会議、独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構などの公職の忙しいスケジュールであっても研究者の感覚を忘れてはいけないと、並行して研究を続けている。 「東大では私と一緒に研究室を運営していた教員を中心にいくつかのテーマについては継続して研究・実用化を進めています。これからは、これまでと同様に共同して進めるテーマもありますが、別のテーマを継続して行ったり、新しい研究テーマを始めたりしていきたい。研究や開発を進めるには、ちがう分野の研究者を含め、医師や産業界、ルールづくりをする人などいろいろな人たちと話すことが大事だと考えています。特に若い学生たちには、『悩んで止まっているよりも手を動かせ』と言いたいですね。工学分野の研究者として、何かをつくりながら、試行錯誤を重ねることは、何よりもの勉強になると思います」(光石先生)。
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