天田財団ニュース No16
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クラックがウェハ面からずれたoff角で進展し、100㎛程度の段差が生じることが問題となる。ター 産学官連携准教授を経て、2010年に京都大学大学院 工学研究科 材料化学専攻の准教授に就任、現在に至る。 専門は無機化学、非線形光学、ナノフォトニクス。2022年より国際光工学会(SPIE)フェローも担当している。 実家が浄土真宗の寺院で、下間准教授も得度、僧籍を持つ。東北大学在学中から研究者を目指した。京セラの研究開発部門で6年ほど研究をしたあと、社命で社外の研究機関に勤務。派遣期間を終えて会社へ戻ると、所属していた研究プロジェクトは解散していたが、それを契機に企業を離れ、大学職員として研究を続ける。9❶❶❶レーザ光源と自作したレーザ加工装置や光学効果評価システム/❷パルスレーザ加工システム/❸赤外フェムト秒レーザ加工装置❷❷三浦研究室のメンバー。後列左から4番目が三浦清貴教授、5番目が下間准教授❸❸フェムト秒オーダーのレーザパルスを光源に 下間准教授は、パルス幅が電子とフォノンのカップリング時間(数ピコ秒)よりも短い、フェムト秒オーダーのレーザパルスを光源として用いることで、熱損傷を最小化した。特にダブルパルス列照射をはじめとした、時間遅延したフェムト秒レーザパルスを用いる。ダブルパルス列照射によって、パルスとパルスの遅延時間に応じて、第1到達パルスによる励起電子密度(プラズマ密度)が変化することから、第2到達パルスの相互作用も変化。結果として、光軸方向に加工痕が伸びない加工が期待できるようになった。 また、第1到達パルスの非線形吸収によって、いったん欠陥(色中心)を形成させ、波長変換した第2到達パルスの非線形吸収によって、局所的な結晶構造を変化させることができた。構造変化領域には局所的に応力分布が形成されるため、これによって、これを起点としたエネルギー効率の高いスライシングが期待できる。SiC結晶は波長によって吸収係数が大きく異なることから、第1到達パルスと第2到達パルスの波長やパルスエネルギーを変化させ、さらなる加工効率の向上を目指している。 自動車の電動化をはじめとした脱炭素社会の実現に欠かせない材料の一つであるSiCは、京都大学の松波弘之名誉教授が1987年に発見した。今後、ウェハの大口径化、欠陥の大幅削減などによるウェハの高品質化とともに、コスト削減が進むと考えられる。本研究の成果がSiCウェハの製造コスト削減の一助となることが期待される。僧籍を持つ研究者 下間准教授は福井県福井市出身。1996年に東北大学大学院 工学研究科 資源工学専攻の博士前期課程を修了後、京セラ㈱の研究開発部門に入社。その後、京セラに在籍したまま、科学技術振興機構 国際共同研究事業の研究員、京都大学 計算材料研究者養成ユニットの研究員を経たのち、京セラを退社。2005年に京都大学で博士(工学)の学位を取得。2008年に京都大学 国際融合創造セン研究と教育はイーブン 在籍している無機構造化学分野を研究する三浦研究室は三浦清貴教授、下間准教授、助教1名の教員3名で、博士後期課程1名、前期課程6名、学部5名の教育・指導にあたっている。 レーザ加工技術は京都大学で学び、フェムト秒レーザの研究から始めたが、レーザは材料加工のツールと割り切っている。研究室の学生も無機化学専攻なので、レーザの実験の際には、夜遅くまで学生に付き合っている。研究室のフェムト秒レーザ発振器の何台かはメンテナンスが必要で、交換部品が入手できないことなどが悩みだという。 「ものづくりの根幹をなす『材料化学』の視点から、新しい学術領域を創生し、特に光科学に関する基礎学理の探求を通じて、新産業創出につながる研究に尽力したい」と下間准教授は研究者としての抱負を語っている。

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