天田財団ニュース No16
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7❶❶❶デバイス作製に使用する3Dモデリングマシンを説明する横山講師/❷マイクロ流体デバイス作製用の鋳型/❸「鳥人間コンテスト」に出場する人力飛行機の機体❷❷❸❸拡散接合(Diffusion Bonding)に着目 横山講師は、最適な接合技術と従来の加工技術(切削加工やプレス加工、レーザ加工)を組み合わせることで、3Dプリンタよりも優秀な微細中空構造の製造工程の実現が可能と考え、拡散接合(Diffusion Bonding)に着目した。この製造工程は素材の制約が少なく、特定の用途や要件に応じて最適な素材を選択することが可能である。特に高負荷やきびしい環境条件での使用では優れた選択肢となる。また、3Dプリンタは単一の部品や少量の試作品を製造するのには適しているが、大量生産には不適とされている。精密拡散接合と既存の加工技術を組み合わせれば、高速かつ効率的に高精度な微細中空構造品を製造することが可能になる。 そこで、油圧プレスに替えてサーボプレスを採用した高分子樹脂製マイクロ流体デバイス用拡散接合装置を開発した。サーボプレスを採用することで、加圧精度の向上、母材の熱膨張による圧力変動の補正、プログラムによる柔軟な加圧プロファイルの設定が可能となった。微細中空構造の量産が可能 本研究では、より精密な拡散接合を開発し、既存の微細加工技術と組み合わせることで、従来では困難だった微細中空構造の量産が可能になるのではないかという着想に基づき、新たに静圧球面軸受による倣いステージと、精密圧力制御可能なサーボプレスを導入し、これらの課題を解決した精密拡散接合装置を開発する。微細加工技術と拡散接合技術を組み合わせて、従来では不可能だった高機能マイクロ流体デバイスの実現と量産工程の実用化のために、微細中空構造の量産技術としての精密拡散接合術の提案を行う。最大加圧力2kNクラスのサーボプレスの導入で、加圧力の向上をはかり、静圧球面軸受ステージにより、加圧面並行度±0.1°を実現する。 現在の拡散接合装置は、接合前後の変形量が母材の厚さに対して3〜5%であるが、新型の拡散接合装置では変形量1%以下を目標とし、精密拡散接合技術の開発に取り組む。大学における「教育」と「研究」は不可分一体 横山講師は2008年に岡山大学工学部を卒業。同年から北海道大学大学院工学研究科で学び、2013年3月に博士(工学)の学位を取得した。同年4月から2015年3月までは名古屋工業大学大学院 工学研究科の特任助教、2015年4月から2018年3月までは東海大学 マイクロ・ナノ研究開発センターの特定研究員、2018年4月からは大阪工業大学 工学部 機械工学科の講師として、「マイクロ流体力学研究室」を主宰している。 また、横山講師の父親も研究者で、1992年には天田財団の「一般研究開発助成」に採択されており、親子2代の助成研究者でもある。 「私は大学における『教育』と『研究』は不可分一体であると考えています。研究や開発につながる教育としての座学や実験があり、研究室に配属後の研究活動を通じてさらに教育を深める――といった構造が、現在の大学に求められていると思います。私が担当する『流れ学』や『流体力学』は座学ですが、単純に学問を教えるのではなく、その後のPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)授業や研究活動とのつながりを考慮した講義を心がけています」(横山講師)という。 最近は学内での仕事も増え、研究に費やす時間が制約されるが、人力飛行機を開発する学生プロジェクトの担当教員も務めており、過去には顧問として参加したチームが「鳥人間コンテスト」の2位になったこともある。常に学生たちとのコミュニケーションを意識し、大切にしている。 「工学部の教育で一番重要なことは『自分で考える力』をいかに学生に習得してもらうかだと思っています。そのため、卒業研究のテーマは学生自身に決めさせることを徹底しています。そして、座学〜PBL授業〜研究活動という一連のつながりを意識した教育・研究が重要だと考えています」(横山講師)という。 39歳と若く、バイタリティーと意欲にあふれた姿勢には、研究室の院生・学生からの信頼も厚い。在籍していた院生・学生との写真撮影も和気あいあいとしたものだった。

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