天田財団ニュース No16
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しょう 講師デバイスの実現が期待できる段階に到達している。 すでに、蛇行流路を有するアクリル(PMMA)樹脂製マイクロ流体デバイスを複数試作しており、マイクロ流体デバイス上でのPCR(On-Chip PCR)の実現に向けて、デバイス上でサーマルサイクルを実現した。フィルム同士の接合にも着手しており、100㎛前後のフィルム同士を接合し、密着することに成功している。また、各種研究用マイクロ流体デバイスへの発展も進めており、3層構造の高分子樹脂製マイクロ流体デバイスの応用として、中間層に透析膜を挟んだ透析デバイスを実現している。6横山奨講師(下段左)と、「マイクロ流体力学研究室」の院生・学生研究室訪問2大阪工業大学 工学部 機械工学科 マイクロ流体力学研究室横山 奨社会に役立つ新たなデバイスの開発を目指す 大阪工業大学 工学部 機械工学科 マイクロ流体力学研究室の横山奨講師の研究テーマ「サーボプレスを用いた微細中空構造の量産を実現する精密拡散接合技術の開発」が、天田財団の2023年度「重点研究開発助成」に塑性加工分野で採択された。 横山講師は、各種微細加工技術や光学顕微鏡などを用いてマイクロ流体の利点・欠点を学術的に理解し、既存の問題の解決や社会に役立つ新たなデバイスの開発を目指した研究を行っており、新たなマイクロ流体デバイスの製造技術として精密拡散接合技術の開発に取り組んでいる。卓上拡散接合装置の開発 2021年4月には、サーボプレスを採用した高分子樹脂製マイクロ流体デバイス用卓上拡散接合装置を開発。旧型装置では実現が難しかった加圧精度の向上、データロガー機能の追加、圧力制御の自動化、タッチパネルによる接合条件のワンタッチ呼び出しを実現した。新型装置により接合品質の向上も実現し、3層構造の高分子樹脂製マイクロ流体デバイスの量産に成功した。3層構造にすることで、流路機能を中間層に集約可能となり、レーザ加工による安価な流路形成や、フィルムを用いたフレキシブルなマイクロ流体微細な中空構造を有する装置への需要 マイクロ流体デバイスをはじめ、ベイパーチャンバー、熱交換器、燃料電池セパレーター、インクジェットノズルなど微細な中空構造を有する装置の需要は多い。技術の高度化により微細化が進み、より微細な中空構造を効率的に製造する技術が求められている。微細中空構造の製造には複雑な流路パターンが必要で、これまでの切削加工技術のみで対応することは困難と思われる。そこで、複数のパーツやレイヤーに分割し、切削加工やプレス加工で製造した部材を接合することで製造されるケースが一般的となっている。 しかし、中空構造内に流体を封入する事例が多いため、高度な密閉性と接合面の滑らかさが必要とされる。㎛オーダーの微細中空構造には強い毛細管現象が発生するため、溶剤や接着剤の使用は微細中空構造閉塞のリスクがあり、安易には採用できない。すなわち、微細中空構造による製造の最大の課題は、最適な接合技術の欠如にあると言える。 近年、微細中空構造の製造に対しては産業用3Dプリンタを採用する事例が増えつつある。マイクロ流体デバイスの場合も、3Dプリンタを用いた事例が多数報告されている。しかし、3Dプリンタは利用可能な素材が限定されてしまうため、特殊な素材や複合材料を使用することは困難だ。また、3Dプリンタで出力した材料は、熱による内部応力などから従来の製造工程より材料特性が劣化する傾向がある。サーボプレスで微細中空構造の量産を実現する精密拡散接合技術の開発学生に「自分で考える力」を習得させることが課題

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