天田財団ニュース No16
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観察ができます。研究内容によって自由にカスタムできるのも、研究室で所持している強みです」と語っている。生が10名在籍している。大事にしているのは社会や企業と近い環境をつくることだ。酒井教授は現在、アドミッションセンター長として、大学共通テストや大学独自入試などの責任者としての業務なども担当する。学内での役職が大きいほど、研究に費やす時間が減少するが、それでもモチベーションを下げずに研究に取り組めるのには訳があるという。 「本学は中堅私立大学で、博士後期課程に進学する学生はほぼゼロ、学部から博士前期課程への進学率も20〜25%。研究者になりたい学生はほとんどいません。彼らの多くは卒業後は就職して、設計や開発の仕事に就く。限られた時間の中で何を教えたらいいかと考え、社会により近い現場を早く見せ、考える機会をつくろうと考えました」。 「成蹊大学では3年生の後期から研究室に配属されます。私の研究室では卒業研究と就職活動の動機づけを行う目的で、B to B企業を中心に毎年8社前後の会社を訪問し、工場見学、質疑応答、懇親会をしていただきます。学生たちが将来どんな会社でどんな仕事をしたいのか、実際に見せることで考える機会を設けています。学内の役職の関係もあって多忙な日々が続いています。そんなときに考えるのは自分がなぜ大学の教員になったかということ。私は企業と学生と私の3者で共同研究をし、共同研究を通じて学生を育てることを目標に大学教員になりました。だからこそ、どんなに忙しくても学生と過ごす時間は大切にしています。企業や学生とともに共同研究を行うことは、私のモチベーションにもつながっています」(酒井教授)。5❶❶❶実験室。2024年秋には理工学部エリアの新棟建設が終わるため、新たな実験室に移動する/❷電界放出形走査型電子顕微鏡装置。4つの画面で元素分析、結晶方位の様子などが確認できる/❸塑性加工や金型の知識を活用し、パスタ押出しマシンのダイス設計なども行っている❷❷「材料力学研究室」のメンバー(左端が酒井教授、右端が蘆田茉希助教)❸❸多様な業種の企業と共同研究を行う 酒井教授は1990年に立命館大学 理工学部 機械工学科に入学、当初は自動車のエンジンをつくりたいと考えていた。4年生で研究室を選択する際に、「構造や製法を変えるだけで性能を大きく向上させるのは難しい。それよりは良い材料を開発した方が性能を飛躍的に向上できる可能性があるし、さまざまな製品にも応用できる」と考えるようになった。その後は博士課程に進学し2000年3月に博士(工学)を取得した。卒業後は東京都立大学 工学部 機械工学科の助手などを歴任。2009年4月に成蹊大学 理工学部 エレクトロメカニクス学科の准教授に就任し、2014年4月にはシステムデザイン学科の教授に昇任した。 酒井教授の研究分野は機械材料、金型、パスタ、金属材料工学、結晶方位、集合組織。一見、無関係に見えるパスタだが、3次元塑性加工シミュレーションソフトによる生地からの押出し解析を、パスタ押出しマシンのダイス設計に応用している。共同研究先は素材メーカーや機械メーカー、食品メーカーなどさまざまで、酒井教授が代表者として研究室を主宰してから取り組んだものだけでも2004年からの19年間で52件にもおよんでいる。 「研究費を集めるためだけの研究はやっていません。実際に共同研究先に開発費用の負担はゼロで結構ですとお伝えする場合もあります。ほしいのはその業界の動向や、自分たちが取り組もうとしていることが産業界側から見て意味のあることか、革新的なのかという情報です。やはり業界の方に聞いてみないとわからない部分はあるので、直接お話をうかがうことは重要です。こちらからも基礎データや実験で判明したデータなどを企業にフィードバックするなど、相互で情報を交換しながら研究を進めています」(酒井教授)。独自で15年以上行っている会社見学会 「材料力学研究室」(2024年度)には酒井教授、蘆田茉希助教のほか、修士M2が3名、M1が5名、学部4年

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