天田財団ニュース No16
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焼結前後、引張試験・クリープ試験による破断前後などのSEM(走査型電子顕微鏡)による観察。EBSD(電子後方散乱回折)による結晶方位観察。引張試験・クリープ試験・硬さ試験などの基礎的特性調査を行い、AMで造形したSUS316L材の基本的な特性を市販のSUS316L材と比較する。造形した鍛造用金型が冷間および熱間で使用できるかどうかを3次元塑性加工シミュレーションによる数値解析および実験の両方から評価。解析で得られたデータをもとにAMで金型を造形し、その有用性について確認する。 「AMで鍛造用金型をつくることができれば共同研究先である鍛造用金型製造メーカーが抱える課題の解決にもつながるのではと考えました。ラピッドプロトタイピングがより速くできれば、本金型も早くつくれ、コストも削減できる。製造工程の一部を自動化でき、力が加わらない部分をハニカム構造などにして軽量化する――という3Dプリンタの特徴を生かした使い方ができると考えています。現行の加工法からすぐに置き換わるか、売上に直結した効果が出せるかと言われれば難しいと思います。ただ、必要なときに選択肢のひとつとして提供することができればと考えています。AMで造形した鍛造用金型が使用可能かどうか、500kNの万能試験機で鍛造試験評価していきます」(酒井教授)。4成蹊大学 理工学部 理工学科の酒井孝教授成蹊大学 理工学部 理工学科 機械システム専攻酒井 孝 教授金属3Dプリンタで鍛造用金型をつくる 成蹊大学 理工学部 理工学科 機械システム専攻の酒井孝教授の研究テーマ「金属3Dプリンタで造形した鍛造用金型の特性評価」が、天田財団の2023年度「重点研究開発助成」に塑性加工分野で採択された。酒井教授が天田財団の助成に採択されるのは今回が8回目。 金属3Dプリンタ(Additive Manufacturing:AM)は産業界への普及が期待される加工分野のひとつ。医療・航空宇宙分野で先行している欧米と比べ、日本は大きく遅れを取っている。酒井教授は、AMの産業利用の一案として、鍛造用金型の造形を目指す。AMは従来工法で実現できない複雑形状の造形が可能であり、鍛造用金型の高性能化・高機能化・軽量化が可能になると考えた。複雑形状の鍛造用金型を短時間で高精度に造形できれば、製造現場のDX推進とコスト削減などにもつながる。課題解決のための「選択肢」をつくる 本研究では米国製AM機によるBJT(バインダージェット方式)の造形を委託して研究を進める。金属パウダーには、BJT方式での信頼性が高く、現在入手可能な中で最も高強度で、市販材とのクリープデータが比較可能なオーステナイト系ステンレス鋼のSUS316Lを使用する。 充填率、密度、磁性、導電率などの物理特性調査や、研究室所有の電界放出形走査型電子顕微鏡装置 酒井教授の「材料力学研究室」では、鏡筒内で曲げ試験ができる電界放出形走査型電子顕微鏡装置(FE-SEM-EDS/EBSD装置)を所有している。このレベルの装置を研究室単位で所持しているのは非常に珍しい。この装置は天田財団の2014年度「一般研究開発助成」に採択された研究テーマ「SPCC材の曲げ変形に対する集合組織のSEM-EBSDその場観察」でも大きな成果をあげている。酒井教授は金属組織学における材料の微視的な変形特性を、塑性加工の分野へ採り入れるべく研究してきた。 酒井教授は電界放出形走査型電子顕微鏡装置について、「SEMとEBSDが研究室にあると、いつでも好きなだけ新たな選択肢として産業界への貢献を目指す金属3Dプリンタで造形した鍛造用金型の特性を評価

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