試験を行い、ガスタービンなどの使用環境として想定される、長期間における高温環境における塑性変形挙動、および組織への影響を調査する。さらに、新開発のタイプB合金に熱力学計算や第一原理計算で絞り込んだ第4元素を加えた新合金について組織、力学特性、変形後の組織を調べ、新添加元素が具体的にどのような組織の生成につながり、どのような力学的特性をもたらすのかという関係性を確立する。そして、新開発合金について、組成-組織-特性の関係を確立することを目指す。 「本研究にはこれまでの研究で生まれた新開発合金を使用します。この合金の形成機構を調べ、合金元素の効果の知見を得たうえで合金設計指針を確立すれば、1300℃以上で運転するのに十分な強度を持つ、有望な合金を作製できる可能性が非常に高い。ニオブシリサイド基合金は米国など複数の国で、次世代高温構造材料として研究されていますが、添加元素1種類のみでここまでの強度を示した例は過去に報告されていません。この研究によって、エネルギー供給やサステナブルな航空輸送の実現に大きな一歩を踏み出せると考えています」。 「助成金の一部を使って、3月に米国・フロリダ州で開催される国際学会でこれまでの研究成果を発表します。学会にはNASAをはじめとした多くの研究機関、大学の研究者が集まるので反応が楽しみです」(松永助教)。学大学院 新領域創成科学研究科 教授)の研究室で卒業研究を行いながら、米国・インディアナ州にあるパデュー大学 工学部 材料工学科の博士課程を目指した。 同大学は工学系の分野では全米トップクラスであり、とりわけNASAの宇宙飛行士の多くを輩出している。しかし、修士課程を修了することなく、博士課程に入学するのは難関だった。そこで、学部4年生の1年間は卒業研究を進めると同時に物質・材料研究機構の研究業務員を務めた。パデュー大学には2016年8月から5年半、博士課程でGraduate Research Assistantとして在校。ニッケル基超合金の高温変形機構について、添加元素が1%ちがうだけで変形機構が大きく変わるという知見を得て、Ph.D.の学位を取得。2022年4月から東京大学大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻の助教となった。15❶❶❷❷❶真空アーク溶解装置/❷650℃までの相変態や比熱を測定する/❸薄膜試料の作製ができるイオンミリング装置❸❸小学生時代から航空宇宙に興味を持つ 松永助教は群馬県高崎市出身。小学生の頃から航空宇宙に興味を持つようになり、高崎女子高等学校の3年生の時には紙で作成したロケットに黒色火薬を詰めて校庭で発射実験を行い、学校から注意を受けたこともあったという。ロケットエンジンの燃焼に関連する材料工学を学ぶため、2012年4月に芝浦工業大学 工学部 材料工学科に入学。高校2年生の時に、NASAを訪問したことを契機に米国の大学で耐熱合金の研究者を目指すためにPh.D.の学位を取得したいと考えるようになった。 卒業研究はチタン合金をテーマに定めた。学外での研究が可能だったため、この研究分野で先端をいく物質・材料研究機構の御手洗容子グループリーダー(現・東京大成果とコストパフォーマンスが要求される 「パデュー大学 材料工学科の博士課程では、指導教員から雇用される形で授業料が免除され、給料が支給されます。そのため、たとえ学生であっても、1年ごとに指導教員から研究の進捗状況と成果を質問され、成果がないと判断されれば解雇され、博士課程を去らなければいけません。指導教員も博士課程の学生を雇用し、研究を進めるために必死に研究費を集めます。そのため、学生に対しても研究成果とコストパフォーマンスを強く要求します。指導教員たちは研究費獲得のために国や企業との連携を積極的に推進しています。きびしい一方で、米国の博士課程では入学後のサポート体制が充実しています」。 「そして、研究は究極のチームプレーであり、年齢・国籍にかかわらず、学生、現場エンジニア、教授陣が助け合い、困っていても必ず助けてもらえる、また助けられたら今度は自分が助ける方にまわる、という良い循環をつくり上げることで良い研究ができるということを学びました。私はこの経験を生かし、さまざまなバックグラウンドや研究歴を持つ人々と協力し、良いチーム環境をつくり上げ、チームをまとめる人間として頼られる研究者になり、将来のサステナブルなエネルギー供給・航空輸送の実現に貢献したいと思います」(松永助教)。
元のページ ../index.html#15