かけは米田教授からのアドバイスだった。 「当センターは1980年に核融合用レーザの開発を目的に設立されました。米田教授も電通大に来られた当初はレーザ核融合関係の研究をされていて、取り組まれた中に『オゾンガスをエキシマレーザの可飽和吸収体として使う』研究があり、『もしかしたらオゾンと紫外レーザの組み合わせが使えるかも』とアドバイスをいただきました」。 「実際にやってみると、そのアイデアは大当たりでした。オゾンガスへ紫外レーザをある条件で照射すると、ガス中に大きな密度分布をつくることができ、さらにそこにレーザ光を入れると、進行方向がわずかに変わっている!と感動したことを覚えています。ただ最初は光が制御できるといっても、光学素子として使えるレベルではありませんでした。ひたすら試行錯誤を繰り返し、博士前期課程の終わりあたりにようやく方向性が見えてきました。後期課程に進学するつもりはなかったのですが、『研究がおもしろい』『このまま後輩にわたすのはおしい』と進学を決意。以来、ガス光学素子を使えるものにするための研究を続けています」(道根特任助教)。12電気通信大学 レーザー新世代研究センターの道根百合奈特任助教研究室訪問5電気通信大学 レーザー新世代研究センター道根 百合奈 特任助教2015年から光学素子に着目して研究を開始 電気通信大学 レーザー新世代研究センターの道根百合奈特任助教の研究テーマ「長寿命気体中粗密波構造を利用した加工用ファイバーレーザー制御素子の開発」が、天田財団の2023年度「一般研究開発助成」にレーザプロセッシング分野で採択された。 道根特任助教は2010年に電気通信大学(以下、電通大) 情報理工学部 先進理工学科に入学。学部3年生のときに米田仁紀教授の研究室で見たレーザに感動。「私もこれで実験がしてみたい」とレーザを使った研究を開始した。2014年には博士前期課程に進学。2015年頃から光学素子に着目し、「ガス媒質の光学素子」の研究をはじめた。 「中性ガスは通常の固体に比べて圧倒的にレーザ光に対して耐力が高いため、もしこれで光学素子ができれば、より小型で、損傷を気にしなくて良いレーザシステムをつくれるようになると考えました。しかし最初は、どんなガスを使うかも含め、手探りの状態でした」と当時を振り返る。 最初は窒素ガスでの実験を試みた。窒素はプラズマ状態にするとわずかに発光し存在感がある。これなら光を制御できるのではと考えたが、思うような成果が得られず素材や条件を変えながら実験を繰り返した。研究が進んだきっオゾンと紫外線を活用した光学素子の開発 産業界で使用されるレーザには、単位時間あたりに処理できるスループットの高さが要求される。そのため、平均出力や繰り返し周波数は年々向上してきた。研究分野でもさらなる高出力レーザが開発・利用されるなど、業界全体でレーザの高性能化(高エネルギー・高出力・高繰り返し)が進んでいる。 しかし、高性能化にともなった課題もある。レーザシステムに組み込まれるミラーやレンズ、回折格子などの光学素子はほとんどがガラスなどの固体でできており、レーザの照射による透過率・反射率の低下、損傷などが発生する。その都度、交換やメンテナンスが必要になるが、高出力化によってその頻度も増える。光学素子を大型化して単位面積あたりのレーザエネルギーを引き下げるなどの対策が採られているが、マシンの大型化につながってしまう。 これらの課題を解決するために道根特任助教は新たな産業界のニーズに応える長寿命の「超高耐力ガス光学素子」の開発デブリフリーな集光光学システムの実現に向けて
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