❶❶❶微小引張試験機と詳細ひずみのDIC測定装置/❷ワンショット3D形状測定機を用いて積層表面粗さと全体形状を確認する/❸標準サイズの引張試験を行い、ひずみ分布を画像解析する実験装置❷❷❸❸鍛造粒子の粒径と体積比の最適設計よって、平均粒径の異なるセラミック粒子(100〜1000µm)と熱処理した積層微粒子をさまざまな体積比で混合して使用することにした。積層材の微細構造(特に空隙、割れ、結晶粒)を実験で観察し、積層材にセラミック粒子が埋め込まれていないかを確認する。積層材の機械特性(特に引張強度)を実験で測定し、セラミック粒子の最適な粒径と体積比を決定する。 次に、その場微細鍛造を用いる積層プロセスの高精度数値解析モデルを開発する。セラミック粒子を用いる場合と用いない場合や、積層微粒子の変形、温度、エネルギー、再結晶状態と条件を変えて比較研究を行う。セラミック粒子を用いる場合と用いない場合、積層材の微細組織と機械特性の定量的な関係を推定する。そしてその場微細鍛造の強化メカニズムを明らかにする。 さらに、高精度数値解析結果を活用した積層実験を効果的に実施し、最適な積層条件範囲を決定する。積層条件である衝突速度、衝突温度などがセラミック粒子を用いた積層材の微細組織および機械特性におよぼす影響を実験観察と数値解析により明らかにする。なお、衝突速度と温度は作動ガスの種類、圧力、温度などに決定される。積層条件、微細組織、機械特性の定量的関係を明らかにし、鍛造品レベルの強度を目標にして最適な積層条件範囲を決定していく計画だ。7強度を鍛造品並みに向上 本研究で提案する積層技術は、高強度アルミニウム合金積層材の強度を鍛造品並みに向上させ、プロセスウインドウを広げるとともに、最適な積層条件範囲が決定できると期待している。また、その場微細鍛造技術の利用により、作動ガスの種類や圧力の要件を減らし、ノズル詰まりの可能性を低減するなど、実用化を容易にする。同時にエネルギーやコストを削減することからSDGsにも貢献することができる。 さらに、数値解析と実験を組み合わせた研究手法を用いてその場微細鍛造の強化機構と影響因子(塑性変形と結晶粒微細化)を明らかにすることで、積層条件と機械特性の定量的関係を導くことを目標にしている。中国の3大学で学び大阪大学へ 王助教は中国・重慶市出身だ。2010年に重慶大学 工学部に入学して金属溶接の研究に関心を持ち、2014年に溶接分野で世界的に優れた研究実績のあるハルビン工業大学でさらに溶接科学を学んだ。修士2年を修了した2016年からは上海交通大学で研究を続けた。 2018年10月からは接合数理解析の研究で世界トップクラスと言われている大阪大学 接合科学研究所に留学し、材料強度研究分野における数理モデル、強度計測、延性破断に関するシミュレーションや、溶接加工分野の溶接力学、アーク溶接、スポット溶接、FSWプロセス、継手強度、応力測定、金属3次元積層製造などの研究プロジェクトにそれぞれ参加しながら、大阪大学大学院 工学研究科 地球総合工学専攻に私費留学として入学し、2021年9月に学位を取得した。それと同時に接合科学研究所 接合構造化解析学分野の麻寧緒教授の研究室の助教となった。 麻教授は数理解析による材料強度や接合強度のシミュレーション研究の第一人者であるとともに、インクリメンタル成形加工技術をはじめとした塑性加工研究にも造詣がある。王助教も麻教授のもとで塑性加工から数理モデルの開発による材料強度の解析の研究に熱心に取り組んだ。研究へのモチベーションが並外れて高い 麻教授は王助教について「王助教は一家の一人娘として家族や親族の支援を受け、研究者として成長してきた『期待の星』です。研究に対するモチベーションが非常に高く、学生たちをリードしています。自分の研究以外に学生の指導、研究室の雑務もこなして大変だと思いますが、とにかく研究熱心です」。 「高強度アルミニウム合金微粒子に熱処理を施し、積層造形性を改善することによって積層材の高強度化をはかるとともに、サイズが大きいセラミック粒子をショットピーニングするその場微細鍛造に適用するという王助教の着想はすばらしい」と高く評価している。 「これからも研究者として世の中に貢献できるような研究を続けていきたい」と王助教は語っている。
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