天田財団ニュース No15
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❶❶❶熱間塑性加工により作製した不均一組織を有するLPSO型Mg合金の表面観察像/❷Mg合金のクリープ特性を調べるためのクリープ試験機制御装置/❸約1300℃までのクリープ試験が可能な高温クリープ装置❷❷❸❸ そのため、肥大化する消費社会を持続的に支え得る軽量構造用材料、生体材料として軽量かつ高強度なMg合金の活用が期待されている。その中でもMgに微量の遷移金属元素と希土類元素を添加し長周期積層構造(LPSO)相と呼ばれる強化相を導入した『LPSO型Mg合金』は非常に優れた力学特性を示し、特に大きな注目を集めている。 Mg合金の発展は輸送用機器の軽量化によるグリーントランスフォーメーション(GX)につながり、脱炭素社会の実現にも貢献すると期待されている。そのためには実際に使用される過酷な環境下における高い力学的信頼性の要求に応える必要がある。 比較的低融点であるMg合金は、高温において小さな荷重でも徐々にひずみが蓄積するクリープ変形が顕著である。比較的高温にさらされる自動車などの内燃機関付近での使用を考えると、クリープ特性の改善には大きな価値がある。硬質なLPSO相を軟質なMg中に分散させることはクリープ特性改善の有力な手段と考えられるが、闇雲なLPSO相の導入によるクリープ特性改善は限界をむかえており、高度な材料学的知見に基づく新たな材料設計が必要になっている。 金属材料の力学特性にブレークスルーを生み出す新たな材料設計指針として、力学特性の異なる複数の領域を組み合わせた不均一材料の創製に注目が集まっている。 本研究では、熱間塑性加工と熱処理による不均一LPSO型Mg合金の創製を目標に、超硬質なLPSO相領域、硬質な微細粒Mg領域、軟質な粗大粒Mg領域の3領域からなる不均一合金を熱間塑性加工により創製する。そのために、塑性加工に続く熱処理により優れた特性を発現するための微細組織を制御する。さらに、不均一LPSO型Mg合金における高温クリープ特性改善とメカニズム解明のために、不均一組織を有するLPSO型Mg合金における高温クリープ変形挙動の温度・応力依存性を調査する。また、微細組織解析の結果と併せることで、材料の不均一性を利用したクリープ特性改善メカニズムを解明する。5熱間塑性加工により不均一合金を創製する 峯田准教授はこれまでに、適切な条件での熱間塑性加工を行うことで、LPSO型Mg合金中に意図的な不均一組織を形成させることに成功した。その不均一組織は、熱間塑性加工時のひずみと熱により形成され、領域ごとに力学特性が大きく異なる。また、その不均一組織を有するMg合金は優れたクリープ特性を示すことを見出した。そこで、特性改善メカニズムの解明とそれに基づくさらなる耐クリープ性の向上には大きな学術的・産業的価値がある。研究にも学生指導にも楽しみを見出す 「合金化によってMgの性質が変わっていくことはおもしろいと思います。さらに『合金化』と、たたいたり高い圧力をかけたりする『塑性加工』、高温加熱と冷却による『熱処理』――この3つによる『組織制御』によって高性能な金属材料を生み出す研究がさかんに行われています。しかも合金の元となる金属の選択と配合割合、加工の手法、熱処理の温度など各要素の組み合わせは、ほぼ無限です。その中から時代を変えるような新材料が生まれる可能性があるかと思うと、科学を駆使した錬金術みたいで楽しくなります」。 「大学ではできる限り院生や学生たちが集まる共同研究室で、それぞれの研究の進捗確認や学術指導を行っています。自分の居室では学生たちの実験結果やデータ確認、論文の添削指導と忙しくしています。また、学内の各種委員会への参加などの公務もあるので、実際に自分の研究に費やせる時間は全体の10%もありません。しかし、学生たちの研究テーマが自身の研究と重なる部分もあり、学術指導や添削も研究と一体になるので不満はありません。研究・教育をやってみたいという気持ちがあったので毎日を楽しんでいます」(峯田准教授)。

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