レーザ加工装置各種実験装置や測定機器実験装置について説明をする久慈助教放射率が劇的に上昇し、放熱効率は非加工材の2.5倍となりました。同様の非加工状態の材料表面に酸化被膜処理を行った場合ではここまでの放熱性能の向上は生じなかったため、酸化被膜と微細構造によって相乗効果が生じたことは明らかです」。 「そこで、酸化被膜(酸化現象)は、環境要因(水、大気、pH、温度など)に依存して形成されることに着目しました。水中に設置したチタンに対して試験的にレーザ照射を行ったところ、レーザ照射領域の外周部に広く酸化被膜が形成されました。水中へのレーザ照射はサブクール沸騰によりバブルを生じさせ、バブル崩壊の際にはラジカルが発生します。ラジカルは酸化を促進する効果があることから、水中でのバブル崩壊によるラジカルの発生と金属表面の酸化反応を制御できれば、さまざまな金属材料に対して組成比の異なる多様な酸化被膜を形成できると考えました」(久慈助教)。 本研究では久慈助教の専門分野であるレーザ加工による微細構造の創生に加え、材料学的視点から金属の酸化現象を制御する、水中レーザ加工を用いた微細構造と酸化被膜のハイブリッドテクスチャリング技術を探求し、従来の表面加工では見受けられない新たな相乗効果による機能創生を目指すものとなっている。 女性の視点から「新しいものづくりを考えていきたい」という久慈助教のこれからに期待したい。13表面テクスチャリングを活用 「一般的に超短パルスレーザを用いると、レーザを照射した材料表面にはレーザに誘起され自己組織的に創生される『微細周期構造』(LIPSS)が形成されます。この形状を活用した表面テクスチャリングによって、材料に対して新たな機能を付与する研究――たとえば、耐摩耗性や生体親和性の向上を目指すものなどが進められています」。 「いわて産業振興センターに在籍していた当時、研究支援活動の一環としてシーズ発信型の共同研究に取り組みました。その中で、東北地域の公設試験研究機関や企業様と協力し、温度によって放熱性が変わる新たな機能性表面の創成に取り組みました。この研究開発では材料表面からの放熱、つまりは電磁波の放出であることに着目しました。表面から放出される電磁波の波長は、プランクの法則に依存して変化するので、特定の温度では特定波長の電磁波が放出されやすくなります。逆転の発想で、特定波長の電磁波が放出しやすい表面をつくれば、所望の温度で放熱性が向上する温度敏感性の高い表面が創成できるのではないかと考えました」。 「そこで、電磁波と同じく波としての性質を持つ『光』の制御方法の回折格子を参考に表面形状を設計しました。まず、精密切削で電磁波波長と同程度の周期のV溝構造をつくり、そのうえに超短パルスレーザでLIPSSを形成していきました。前者の構造はブレーズド回折格子、後者はホログラフィック回折格子を模倣したものです。この構造によって、特定の温度で放熱性能が向上する『機能性放熱表面』が実現しました。この研究成果から、異なる構造の組み合わせによって、まったく新しい機能を発現させることができるのではないかと考えるようになりました」(久慈助教)。ハイブリッドテクスチャリング技術の探求 「超短パルスレーザの熱加工条件で材料を加工すると、LIPSSが徐々に変形し、酸化被膜をまとった特殊な凹凸構造へと成長することを発見しました。ためしにこの構造の分光放射率と放熱効率を評価したところ、すべての波長域で
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