東北大学大学院 工学研究科の久慈千栄子助教超短パルスレーザ、機械加工、微細構造/組織制御、表面テクスチャリングなどとなっている。 「『アモルファス合金』は結晶構造を持たない特殊な合金材料で、その構造に起因して優れた軟磁性を示します。一方、強度や靭性が高いといった機械的特性も有しているので、難加工材料として知られています。このアモルファス合金に対して熱処理を行い、微細構造を変えることによって難加工の原因である機械的特性も変化させることができます。そこで熱処理によって変化する微細構造と機械的特性の関係性、さらには加工品質の向上と加工抵抗の低減を実現する最適構造および加工条件の調査を行っています」。 「調査を通じて、アモルファス合金中にわずかに結晶が析出している『中途半端な微細構造』の状態で、加工性が大幅に向上することがわかりました。一方、この構造変化の様子は合金の組成によって大幅に異なります。現在は微細構造の制御による加工性の向上が、どのような組成のアモルファス合金にも適用できるのかを明らかにするため、基礎研究を進めています」(久慈助教)。12研究室訪問5東北大学大学院 工学研究科ファインメカニクス専攻久慈 千栄子 助教社会人ドクターで学位を取得 東北大学大学院 工学研究科 ファインメカニクス専攻の久慈千栄子助教の研究テーマ「水中レーザ加工によるハイブリッドテクスチャリング技術の探求」が、天田財団の2022年度「奨励研究助成(若手研究者)」にレーザプロセッシング分野で採択された。 久慈助教は2016年3月に東北大学大学院 工学研究科機械システムデザイン専攻で博士前期課程を修了。2016年4月からは富士フイルム㈱ R&D統括本部生産技術センターで関連工場の工程改善業務などを行った。次第により多くのものづくり現場に寄り添った研究開発に従事したいという気持ちが強くなり、2018年9月に出身地の岩手県にUターン。いわて産業振興センターに転職し、2019年4月からは東北大学大学院 工学研究科機械機能創成専攻の博士後期課程に社会人ドクターとして進学、研究支援員として地域貢献のための研究にも取り組んだ。2022年3月に博士後期課程を修了して学位を取得、同年4月に同工学研究科 ファインメカニクス専攻の助教となった。アモルファス合金の加工性を改善させる研究 久慈助教の研究分野のキーワードは、アモルファス合金、超短パルスレーザの新たな活用方法を発見 今回、採択された研究テーマ「水中レーザ加工によるハイブリッドテクスチャリング技術の探求」は、こうした研究課題から派生した研究のひとつだ。 「アモルファス合金全体の構造を熱により変化させてしまうと、製品性能に必要な軟磁性も低下させてしまいます。そのため、加工によって切断されるわずか数マイクロメートルの領域だけをうまく熱処理する必要があります。そこで私は従来『非熱加工』に用いられていた超短パルスレーザに着目しました。超短パルスレーザを用いた実験中に、ある照射条件を調整すると非熱加工用のレーザであるにもかかわらず、アモルファス合金が結晶化するほどの『熱加工』が行えることがわかりました。このレーザはもともと非熱加工に用いられるものなので、熱の拡散範囲もマイクロメートルオーダで制御できるのです。この発見によって、アモルファス合金の局所領域の熱処理が可能となりました」(久慈助教)。微細構造の調整により、アモルファス合金の加工性を大幅に向上女性の視点で「新しいものづくり」を考える
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