天田財団ニュース No15
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❶❶❷❷❶フェムト秒レーザ誘起表面周期構造を加工するヘッド部/❷出力3Wのフェムト秒レーザ発振器を組み込んだ実験装置(発振器はメンテナンスのため取り外されている)/❸実験装置について説明するキム特任助教フェムト秒サーモリフレクタンス法を用いたLIPSSの熱拡散率の時分解計測実験系❸❸ルギー持続社会と超スマート社会への貢献を目指した研究を行っている。そしてこれから発展が見込まれる量子デバイスにおいて、演算を担う固体量子系と通信を担う光のインターフェースとなるフォノン系の開発にも取り組んでいる。 キム特任助教は半導体などの固体表面に生成される光の波長より小さい周期ナノ構造(LIPSS)に着目した。フェムト秒レーザで表面電磁波を生成することで、光の波長以下の周期構造体LIPSSを㎟/sオーダー以上の高速で形成する。また、熱フォノンの平均自由行程より小さいナノ構造体は熱エネルギー輸送に関与するため、薄膜の熱伝導の制御に応用性が高い。 しかし、これまでLIPSSを薄膜デバイスの熱伝導制御に利用した例はなく、熱物性の評価法も確立していない。ナノスケールを有する半導体薄膜デバイスの作製技術を開発し、熱伝導の異方性を究明することで、指向的な熱伝導制御技術の創成に挑戦し、半導体熱制御に資する高速ナノ構造加工技術を確立。半導体サーマルマネジメントとマイクロ熱電デバイスなどの応用分野に寄与することを目指す。ノンエンジニアリングフェムト秒レーザ加工、微小な電気機械システム(MEMS)、レーザ計測を統合し、新機能を有するデバイスの作製および評価法の提案に挑む。将来的にはレーザ誘起ドーピングなどの高度なプロセス、独自的な超高速サーモリフレクタンス法の導入まで検討する。そのことにより、フェムト秒レーザをフォノンエンジニアリングに応用する新展開につなげることができると期待される。2. 複合ナノ構造におけるフォノン輸送の基盤技術確立LIPSSを用いた熱伝導制御は、世界的にも未開拓な技術であり、加工・計測などの実験的な部分および解析手法の両面で多くの試行錯誤が予想される。特に多層ナノ構造におけるフォノンと電子の輸送現象は拡散・弾道的輸送・干渉などが複合的に現れるため、その理論解析が非常に困難になると予想される。本研究の遂行により、多層ナノ構造体の熱と電気の輸送制御に関する学術的な基礎を構築することに挑戦する。3. カーボンニュートラル社会に向けた新機能環境発電デバイスの開発に挑戦フォノン制御技術の具体的な応用として、環境発電デバイスの高度化に挑戦する。フォノンと電子の輸送を操ることにより新たな機能性を持つナノ構造を導入し、カーボンニュートラル社会に寄与可能な環境発電デバイスの開発を試みる。11環境発電デバイスの開発にも挑戦 キム特任助教は本研究の特色として3点を挙げている。1. 高度なフェムト秒レーザ加工、計測技術を用いたフォ「チャレンジすることが大切」 キム特任助教は若手研究者として「チャレンジすることが大切」と語っている。 「『研究のための研究』ではなく、社会実装されるような『世の中に貢献できる研究』をしていきたい。成果を生み出すためにもチャンスがあればチャレンジしていきたいと考えています。高校を卒業して日本で学んだのも、特任助教の応募にチャレンジしたのも、チャンスだと思ったからです。将来的に韓国へ戻るのか日本で研究を続けるのかは、まだわかりませんが、その気持ちは変わりません。そして、日韓友好の懸け橋にもなりたいと思います」(キム特任助教)。

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