天田財団ニュース No14
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❶❶❶先進構造材料学研究室のスタッフ。左から山田素子研究員、成田麻未助教、渡辺義見教授、森谷智一助教、佐藤尚教授/❷ヘテロ凝固核粒子を製造する小型ガスアトマイズ装置/❸精密万能試験装置❷❷❸❸プリンティングに組み入れることで、先進的な金属3Dプリンティング技術の提案が期待できる。 一般的に、凝固組織の微細化と均一化を目的とし、金属の溶融・凝固過程において異質核(ヘテロ凝固核)粒子が内包した結晶粒微細化剤が添加(接種)されている。凝固する相と界面マッチングの高いヘテロ凝固核が存在すると、それを足場として凝固が発生し、乗り越えるべき活性化エネルギーの山が低くなる。これにより、小さな過冷却で至るところに凝固が生じ、結晶粒が微細化される。その結果、機械的性質の向上が担保できる。このヘテロ凝固理論について、渡辺教授は長らく研究を行っており、このヘテロ凝固理論がPBFによる金属3Dプリンティングにも適用できることを発見した(特許第6819952 号)。 本研究では原料形態、凝固速度や温度勾配など、凝固に係わる諸条件が異なるワイヤ式DEDでも適用できるかについて調査することを目的としている。硬さが1.5倍の造形が可能なワイヤ素材の開発を進める。 それとともに、レーザを熱源としたワイヤ式DEDでも、ヘテロ凝固核粒子の添加により高精度プロセッシングが達成でき、無添加造形体に比べて組織と強度が改善されることが見込まれることから、DEDで造形した材料の評価も行う。 本研究は、レーザを熱源としたワイヤ式DEDで、高造形性の実現と造形体の高強度化をヘテロ凝固理論により解決する点が独創的であり、本研究のようにヘテロ凝固核を添加して素材そのものから変えるといった革新的な研究は、少なくとも国内には存在しない。 研究成果次第では、レーザを熱源とした3Dプリンティングの高精度プロセッシングが実現できるのみならず、鋳造時に添加する微細化剤や、レーザ溶接を含めた溶接ワイヤとしても実用化でき、溶接プロセス全般への波及効果が見込まれる。9ヘテロ凝固核粒子を内包したワイヤの開発 安定的かつ高品質な3D積層造形が可能なワイヤ式DED 3Dプリンティング装置を用い、ヘテロ凝固核粒子を添加することにより、造形困難材料であるアルミニウムの3D積層造形を行う。この目的達成のためには、アルミニウム母相中にヘテロ凝固核粒子が内包したワイヤ素材の開発が不可欠である。 そこでまず、ヘテロ凝固核粒子として、凝固相であるアルミニウムと界面マッチングの高い物質を探索する。次にこのヘテロ凝固核粒子を分散させた母材を作製し、それに線引き加工を施すことによりφ1.2㎜のワイヤを製作する。PBFや粉末式DEDでは、原料粉末にヘテロ凝固核粒子を添加するだけで良く、比較的簡単に実証実験が行える。しかし、ワイヤ式DEDに適用する場合、造形実験に資する長さのワイヤを確保しなければならず、なかなか実験が行われていなかった。 本研究では、ヘテロ凝固核粒子を内包したワイヤを開発し、三菱電機製のワイヤ・レーザDED装置によって造形実験を行い、無添加造形体と比較して、結晶粒径が1/5、SDGsの目標達成を目指す研究室 渡辺教授は1985年、名古屋工業大学工学部金属工学科を卒業し、東京工業大学大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程に入学。1990年に同大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 博士後期課程を修了した。 1990年から鹿児島大学 工学部 機械工学科助手。1992年から北海道大学 工学部 金属工学科助手。1994年から同大学大学院 工学研究科 物質工学専攻助手。1995年から信州大学 繊維学部 機能機械学科助教授、同大学大学院 工学系研究科(博士後期課程) 材料工学専攻担当。2005年から、名古屋工業大学大学院 工学研究科教授として勤務している。 渡辺義見教授と佐藤尚教授の先進構造材料学研究室では、SDGsの目標達成を目指し、物性物理学と材料工学の融合により鉄鋼材料や軽金属材料の研究を行っている。プロセス制御による組織制御を行い、新たな材料特性の発現や新規材料開発に取り組んでいる。 渡辺教授を筆頭に、教授1名、助教2名、博士後期課程2名、博士前期課程12名、学部生8名、研究員1名、技術補佐員2名、秘書1名が在籍している。

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