天田財団ニュース No14
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(b)強制潤滑ユニットの設置例(a)一般的なハイドロフォーミング加工装置ハイドロフォーミング装置(既存)ハイドロフォーミング金型内圧制御のための電気信号制御盤(既存)「後付け強制潤滑ユニット」のコンセプト(特許出願番号:2021-143672)強制潤滑部金型(入れ子)ハイドロフォーミング金型ハイドロフォーミング装置(既存)高圧ホース強制潤滑用圧力源潤滑剤圧力制御のための電気信号内圧制御のための電気信号制御盤(既存)成形後の鋼管(チューブ)(c)金型内に設置する強制潤滑入れ子構造体強制潤滑用圧力源強制潤滑部金型(入れ子)0.01㎜以上10㎜以内 ハイドロフォーミングの強制潤滑では、潤滑剤圧力が高い場合に摩擦係数が減少し、潤滑剤圧力が低い場合に摩擦係数が増加すると考えられる。従って、摩擦係数を時系列で自在に変化させることができる可能性を秘めている。言い換えると、時系列で材料の変形を促進したり抑制したりできる可能性がある。本検討では潤滑剤圧力を上げ下げしたり、途中で潤滑剤圧力を低下させて潤滑を停止させたりすることによる肉厚の変化を調べ、肉厚が周方向に均一化できる条件を見出す。潤滑剤圧力を上げ下げするパターンは、ハンマリングハイドロフォーミングと類似した材料流動を促進して肉厚を均一化する効果が期待できる。7民間企業で11年間、研究開発に従事 窪田講師は、神奈川県立秦野高校(2002年卒)、早稲田大学 理工学部 機械工学科(2006年卒)、早稲田大学大学院 理工学研究科 機械工学専攻修士課程(2008年修了)を経て住友金属工業㈱に入社。同社の総合技術研究所 利用技術研究開発部、合併後の新日鉄住金㈱では利用技術研究部で、主に鋼管の塑性加工技術開発と、自動車メーカー・自動車部品メーカー向けのソリューション技術開発に従事してきた。 2015年に京都大学大学院 エネルギー科学研究科 エネルギー応用科学専攻で博士(エネルギー科学)を取得。その後2018年までは自動車メーカーへ出向し、主に自動車ボデーの軽量化技術開発に従事した。2018年からは新日鉄住金の材料ソリューション研究部で自動車の衝突構造開発に従事し、2019年4月に東海大学 工学部の講師となった。「後付け強制潤滑ユニット」を開発し実証する 本研究で開発する「後付け強制潤滑ユニット」の構想図(右上図)を示す(アイデアレベルで特許出願済)。 実操業での使い方としては、従来法で割れが発生した場合に応急的に強制潤滑ユニットを組み込むことを想定している。本ユニットは入れ子金型と潤滑剤用の圧力源からなり、設計・製作、部品試作を行うことで有効性を実証する。 本研究では、今回の2022年度「重点研究開発助成」の資金を使って新たに強制潤滑ユニットを製作し、2019年度「奨励研究助成 若手研究者」の資金で開発した試験装置に組み込み、有効性確認、課題の洗い出し、装置のレベルアップを行う。金型本体と入れ子金型の間のシール方法、金型の構造強度の確保、入れ子金型と金型本体の境界部での製品へのキズ発生の防止法の確立、強制潤滑圧力源の動作に必要な信号と必要な圧力の応答性の評価を行う。 本加工技術を実部品開発に適用するには、机上での金型設計を可能とするシミュレーション技術の開発も不可欠。具体的には、強制潤滑を用いた場合の摩擦係数の空間的な分布、時系列での摩擦係数(接触圧力依存性)を同定し、有限要素法解析へ組み込むことが必要になる。今後実験により成形挙動をつぶさに観察することで、それを表現可能なシミュレーションモデルを開発していく。「ものづくりのおもしろさを伝えたい」 現在39歳の窪田講師は「大学人になったのは、人材育成とものづくり基礎研究の面から微力ながら産業界の発展に貢献したいと考えたからです。民間企業で11年間、さまざまな場所で研究開発に携わっていく中で、大学・学協会・産業界のみなさまには多くの経験を与えていただきました」。 「生産年齢人口の大幅な減少、博士課程に残るのは海外からの留学生ばかりという現状を見る限り、『ものづくり日本』の衰退は避けられません。ものづくりの教育や基礎研究は、実際のものづくりとつながっていくためにも重要であると考えています。今後とも産業界とのつながりを大切にしながら、ものづくりのおもしろさを未来の産業界を担う人たちに伝えていきたいと考えています」と意気込みを語っている。

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