窪田研究室の集合写真。中央が「ハイドロフォーミング金型」。左から玉城誠(学部3年)、小川哲平(学部3年)、宮澤翼(学部4年)、三上拓徒(修士2年)、石井英(学部4年)、窪田講師るハイドロフォーミングを用いた自動車部材は、現状は引張強さ980MPa以下であり、板成形に比べて低く、形状も比較的単純なAピラーへの適用にとどまっている。 ハイドロフォーミングにおいて高強度材が使われにくく、形状が複雑化しにくい主な理由は成形性の低さにある。コーナー部に材料が充満しようとする際に、平面部で生じる摩擦力がそれを妨げ、材料の減肉・割れが早期に発生する。この減肉・割れは、特に軸押し効果が届かない管端部から遠い位置で顕著になる。6研究室訪問2東海大学 工学部 機械工学科窪田 紘明 講師チューブの高強度化を実現する加工技術――自動車の軽量化・高剛性化に貢献 東海大学 工学部 機械工学科の窪田紘明講師の研究テーマ「強制潤滑ハイドロフォーミングの実用化に向けた研究」が、天田財団の2022年度「重点研究開発助成 課題研究」(塑性加工)に採択された。窪田講師は2019年度にもハイドロフォーミングの強制潤滑の研究により天田財団の「奨励研究助成 若手研究者」に採択されている。 窪田講師は、自動車などの材料となる鋼管(チューブ)の高強度化を実現させるために加工技術の開発に取り組んでいる。 自動車産業ではCO2排出量削減のため電気自動車および電気式ハイブリッド自動車の導入が進んでいる。その一方、衝突事故を起こした際に乗員が高電圧により感電することがないよう、「感電保護性能要件」「高電圧バッテリーの電解液漏れの有無」「高電圧バッテリーの固定状況」が重視され、「衝突安全性の向上」「燃費/電費の改善によるCO2排出量の削減」が課題となっている。 これらを達成するための方策として、高強度・高剛性構造を実現しやすい鋼管を用いた完全閉断面構造を採用する事例が見られるようになっている。しかし、冷間成形であ強制潤滑ハイドロフォーミング――チューブと金型の間に強制的に潤滑剤を注入 窪田講師の研究は、この課題を解決し、高強度鋼管の適用先を拡大することで、自動車の軽量化・高剛性化に貢献することを目的としている。 たとえば直径が50㎜、板厚1.2㎜のチューブを金型に入れて水圧で膨らませる「ハイドロフォーミングチューブ」では、金型との間に摩擦が生じて割れが発生しやすいという課題があり、自動車部品などに使われる高強度材料には使われていなかった。そこで、チューブと金型の間に強制的に潤滑剤を注入することでその課題を解決し、特許も出願した。 本研究では、①初期投資をおさえるために既存のハイドロフォーミング装置に組み込んで潤滑剤を注入するユニットを開発する、②部品の形状に合わせて潤滑剤圧力や潤滑油の量などを調整するシミュレーション技術を開発する、③潤滑剤を注入するタイミングや位置を変えることで板厚を自在にコントロールできるか調べ、「内圧」「軸押し」に加えて「潤滑剤圧力」を第3の制御パラメータとして検討する――という3つの課題に取り組む。 「この技術が実用化されれば、車体が軽くなるため燃費が改善し、強度が高い材料を使うことでより安全な車体を製造できます。将来的には航空機や医療機器などへの応用も期待できます。研究室に所属する工学部生と大学院工学研究科生の協力も得て、実用化に取り組んでいます」と窪田講師は語っている。自動車の軽量化・高剛性化に貢献する強制潤滑ハイドロフォーミングの実用化に向けた研究
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