天田財団ニュース No14
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❶❶❶SLMソリューションズの3D金属積層造形システム/❷ガルバノミラーを使ってレーザビームを自由に動かし、金属粉末を積層造形する/❸積層造形で製作した各種サンプル❷❷❸❸響など、まだまだ多くのことが不明である。 本研究はγ'析出型Ni基超合金を対象として、レーザ積層造形中あるいは造形後熱処理時の固相割れを抑制する手法を、造形プロセス条件および、造形体組織、合金組成の改良の観点から見出すことを目的としている。具体的には、造形まま材の高温引張試験により、試験温度と破断伸びとの相関データを取得し、延性低下挙動を定量的に明らかにする。 Inconel 738LCの造形体について、異なる温度破断試験を行い、破断伸びを実際に測定した予備実験によると、600℃での試験では12〜18%であった破断伸びが、800℃および900℃では1%以下に低下することがわかった。また、このような高温引張試験により、積層造形材ではほとんど報告されていない、実際の延性低下温度域や、そこでの破断伸びについて明らかにすることも期待できる。ていく。 また、前述の通り、高い温度での破断伸びの劇的な低下要因としては、γ'相の析出によるものと定性的には考えられている。しかし、粒界の凝固偏析や、他の析出相の影響なども考えられることから、この延性低下メカニズムの解明も本研究の重要な目的である。粒内のγ’析出状態や粒界の微視組織を詳細に分析し、き裂発生挙動との相関について明らかにしていくことを考えている。15高性能Ni基超合金の積層造形部材の実用を加速 さらに重要なことは、どのようにしてこの現象を克服し、高性能Ni基超合金の積層造形部材の実用を加速できるかである。レーザ造形では、レーザ出力やスキャン速度、ハッチング距離(隣り合うレーザスキャン距離)、予熱など、プロセス条件により、大きな柱状晶から比較的微細な等軸的組織まで変化させることができる。そこで、これら造形材組織と延性低下度合いとの相関を調査し、適切なプロセスウインドウを明らかにする。 そしてこれまでの分析により、固相割れが粒界で生じることがわかっている。粒界を強化し、レーザ積層造形に適した新しい合金設計の指針を得ることを目指す。  他機関の研究事例では、微細な炭化物を添加することにより凝固時の核生成を促すことで組織微細化がはかれ、造形時の固相割れ抑制効果があると報告されている。このような第二相添加による組織微細化への影響と高温度域での力学特性への影響についても定量的に明らかにしさまざまな研究プロジェクトで活躍 渡邊分野長は1995年、東京大学 工学部 材料学科を卒業後、東京大学大学院 工学系研究科 材料工学専攻で博士課程に進学し、2000年に博士(工学)を取得。同年から米国プリンストン大学の研究員として、2002年からカリフォルニア大学 サンタバーバラ校の研究員として、Ni基超合金に対する耐酸化ボンドコーティングや、部分安定化ジルコニアなどの耐熱コーティングを対象に、密着性および界面靭性、皮膜の劣化メカニズムや残留応力などに関する研究に携わった。 2004年、物質・材料研究機構(NIMS)材料研究所溶射工学グループに入所してからは、金属やサーメット、セラミックスなど多様な材料を対象に、粉末原料を用いたコーティングや積層造形プロセスの研究に携わっている。 現在は構造材料研究拠点 接合・造型分野の分野長のほかに、構造材料研究拠点 接合・造型分野 積層スマート材料グループのグループリーダー、統合型材料開発・情報基盤部門 SIP-MIラボ 3D粉末積層チームのチームリーダー、統合型材料開発・情報基盤部門 マテリアルズインテグレーションコンソーシアム 主席研究員なども兼務しており、多忙な研究生活を送っている。 天田財団の研究助成は、2013年度「一般研究開発助成」に「金属粒子の超高速衝突・堆積・成膜プロセスにおける界面強度の支配因子解明」という研究テーマで採択されており、今回が2度目の採択となる。

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