天田財団ニュース No14
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接合・造型分野の研究スタッフ。左から積層スマート材料グループの鈴木大研究業務員、石原智行研究業務員、渡邊誠分野長、笠原健司研究業務員14研究室訪問6物質・材料研究機構 構造材料研究拠点 接合・造型分野渡邊 誠 分野長レーザ金属積層造形プロセスへの注目 物質・材料研究機構 構造材料研究拠点 接合・造型分野の渡邊誠分野長の研究テーマ「レーザ積層造形Ni基超合金の延性低下割れ挙動の定量評価および割れ特性改善の試み」が、天田財団の2022年度「重点研究開発助成 課題研究」(レーザプロセッシング)に採択された。 金属積層造形プロセス技術は、現時点では材料コストや造形時間に課題があり、従来の加工技術を大きく置き換えていく状況にはない。しかし、従来の機械加工や鋳造では困難な形状を造形することができ、部品の大幅な小型化、冷却効率の向上、燃料利用効率の向上等が可能となる。さらに、多品種生産に適した手法でもあるため、あらゆる人が質の高いサービスを受けられる、新たなものづくりシステムの構築に寄与できるとされている。 なかでもレーザ3次元(3D)金属積層造形プロセスは、従来技術では不可能な複雑形状を有する部材を製造可能な新しいプロセスとして注目されている。発電タービンやジェットエンジンの燃焼器、電気自動車の冷却部材など、脱炭素社会の実現に向けた重要な技術となっている。Ni基超合金の「延性低下割れ」 Ni基超合金は、航空宇宙分野において耐熱性が要求される部材に用いられており、エンジン燃焼温度の高温度化や部材の軽量化のために、3D造形プロセスの適用が精力的に研究されている。しかし、高温力学特性に優れるγ'析出型のNi基超合金の積層造形では、造形中あるいは熱処理時にき裂が発生することが大きな課題となっている。 渡邊分野長らはレーザ3D積層造形(Laser Powder Bed Fusion:LPBF)法により作製したNi基超合金Inconel 738LCの断面観察を行い、造形時のスキャン速度を変化させて、き裂発生状態を比較した。その結果、スキャン速度が低下し、単位時間あたり、単位体積あたりの入熱量が増加すると、試験片端部から多数のき裂が発生することがわかった。 渡邊分野長らは割れ発生のメカニズムとして、液相が関与した割れ(凝固割れ、液化割れ)と、固相での割れの2つに注目した。前者は、レーザにより粉末が溶融され凝固する際の凝固収縮にともなう割れ(凝固割れ)などであり、後者はγ'析出にともなう割れと考えられる。 渡邊分野長らの研究では、こうした割れを「延性低下割れ」と呼ぶ。延性低下挙動を定量的に明らかにする 延性低下割れでは凝固完了後あるいは、後続の積層過程における固相状態でのある特定の温度域において、顕著な延性低下が生じ、き裂が発生するものと考えられる。そのメカニズムとしては、レーザによる急冷凝固により、固溶体の状態で凝固したγ相から、γ'相(=Ni3(Al,Ti))が析出することで、γ相の体積収縮が生じ、引張応力が生じると定性的に説明されている。しかし、レーザ積層造形プロセスは新しいプロセスであるために、実際にどの程度の延性低下が生じるのか、それに対する造形体の集合組織の影響や、合金元素の影響、さらには炭化物などγ'以外の組織の影「レーザ積層造形Ni基超合金の延性低下割れ挙動の定量評価および割れ特性改善の試み」金属積層造形技術の社会実装に貢献する

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