❶❶❷❷❶大阪産業技術研究所が保有する摩擦撹拌接合装置/❷摩擦撹拌を行う回転ツール/❸摩擦撹拌によって作製された水素吸蔵合金(中央)摩擦撹拌接合で異種材の薄板を接合したサンプル❸❸ そこでプロセス条件の最適化を進めると、6wt.%水素吸蔵時間は従来のFSPの約1/2から1/3に短縮され、FSPが水素化反応を高速化(初期活性化時間を短縮)できること、第100吸蔵サイクル後も6wt.%以上の水素吸蔵量が維持され、ほかの強ひずみ加工(高圧ねじり加工(HPT)または等チャンネル角押出し(ECAP))を受けたバルク材から削り出した粉末よりもサイクル耐性に優れること、さらに、水素吸蔵合金の生産速度が高速ボールミリングよりも高速(300g/日以上)であることを示した。機械システム工学科を卒業し、2004年に同大学工学研究科機械系専攻機械システム分野の博士前期課程、2007年3月に同物質系専攻材料工学分野博士後期課程を修了して、工学博士を取得した。 同年4月から同電子・数物系専攻電子物理工学分野の非常勤研究員として勤め、2008年10月から3年半は民間企業に勤務した。2012年4月からは大阪市立工業研究所(現:大阪産業技術研究所森之宮センター)に勤務。金属材料の硬さ試験、光学顕微鏡、分析型走査電子顕微鏡、X線回析などの企業支援業務を行うとともに、持続可能な社会を実現するため、塑性加工の応用研究に取り組んでいる。 2017年にはオーストリアのウィーン大学物理学部に留学(1年間)し、現在も水素吸蔵合金の研究分野で交流を続けている。 本研究は同じ研究室で摩擦攪拌接合(FSW)の研究を行う長岡亨主任研究員(工学博士)と、武内孝研究室長も共同研究者として協力している。 「子どもや孫たちの世代にたくさんの負の遺産を残すか、持続可能な社会を築き上げるかは、今を生きる私たちにかかっています。再エネを貯めて大切に使い、ライフラインを奪い合う必要がない世界の実現に向けて、研究を続けていきたい」と木元主任研究員は力強く語っていた。11水素吸蔵合金のサプライチェーン構築へ 摩擦攪拌プロセスは、ベースとなる水素吸蔵合金に触媒物質を添加することも可能である。本研究によって、水素キャリアのうち性能・コスト両面で実用化が困難とされていた水素吸蔵合金について、すでに低コスト化の見通しが得られており、現在は高性能化に向けた研究開発を中心に取り組んでいる。 「摩擦攪拌装置は制御性の高いフライス盤と類似の機構を有しており、少量生産段階では専用機で、量産加工は汎用機で行います。市場拡大局面では多くの金属加工業者が保有する汎用NCフライス盤で摩擦攪拌を可能とするモジュールの開発を進め、水素吸蔵合金のサプライチェーンを構築したい。概算ですが、直近10年で日本国内に導入されたマシニングセンタ40万台のうち、1/4の10万台がそれぞれ1日10 ㎏ の水素吸蔵合金を製造し、1日1,000トンの水素吸蔵合金を製造できれば、清水建設が建設したビル約700棟分のCO2排出量を半減できる量に相当する。そのためには摩擦攪拌部の切削・粉砕・容器充填工程の開発が必要なことから、工作機械、粉砕機メーカー、ガスボンベなどを取り扱う企業のご協力も必要になります」(木元主任研究員)。ライフラインを奪い合う必要がない世界へ 木元主任研究員は2002年3月に大阪府立大学工学部
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