天田財団ニュース No13
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② エンジン燃焼室の耐久性向上を目的としたレーザー熱処③ クリープを含む極低サイクル疲労評価法の開発 ただ、ロケットエンジン燃焼室の一部を金属3Dプリンターで造形して実用性を検証するのと同時に、エンジンノズルなどにセラミック部品を採用することも考えられることから、ソン軸方向半径方向周方向液体燃料燃焼ガスStep1ʼ 加工データを作成するStep1 亀裂発生Step2 レーザープロセッシングStep3 亀裂が治療ビッカース圧子レーザー加工機❶❶液体燃料(冷却溝)亀裂❶ロケットエンジン断面及び内筒構造模式図/❷レーザーによる表面亀裂の自己治療の実験方法❷❷ることが小型ロケット開発の鍵となる。 今回採択された研究では、通常、エンジンは中実丸棒材の外周部以外のほとんどを削り出し加工で製作するため総コストに占める割合が大きく、かつ耐久性がより重要となる。それを、金属3Dレーザープリンターによる積層造形法で製作することで材料の無駄を省き、加えて形状自由度が増すことによる構造の最適化を目指す。さらに、レーザー表面熱処理による材料改質によって、商用ロケットエンジンが抱える強度耐久性課題を克服することを目的としている。 ターゲットとなる不具合事象は、燃焼室内筒の内表面の軸方向に生じる熱亀裂である(図❶)。この急速損傷蓄積対策として、内表面断面形状を工夫し、応力緩和形状に構造変更することは効果的であるが、逆に切削加工は複雑になる。その点、金属3Dプリンターを用いると、ニアネットシェイプ構造を柔軟に低コストで製作でき、かつ複数部品を一体型でつくれるため、部品点数の削減や後工程の短縮ができるなど、多くの利点が生じると思われる。 上記したエンジン内筒内表面の亀裂対策として冷却性能の向上は必須であり、これには冷却溝の形状が鍵となる。そのために構造解析によるロケットエンジン燃焼室の新構造を検討する。具体的にはエンジンの軸対称性を利用し、解析対象領域を全体の1/8、すなわち中心角45°分モデル化する。また、表面改質については、技術開発実績のあるレーザー熱処理技術を応用し、耐久性向上をはかる。 材料評価試験は、引張試験、疲労試験、クリープ試験や低温シャルピー衝撃試験による機械的特性、冷却性能に関わる熱伝導率試験を行う。達成目標は、熱間鍛造による従来工法材のそれと同等以上を最低目標としている。 本研究では、以下の3項目を行う予定となっている。① 金属3Dプリンターによる積層造形法の利点を活かしたエンジン燃焼室新断面構造提案理による表面改質処理法の開発講師にも協力してもらっている。現在はソン講師のほか、専攻科と5年生1名ずつが従事している。 「地元経済の活性化をお手伝いするためにも研究成果をロケットエンジン開発に生かしていきたい」と高橋教授は語っておられた。13エンジンノズルなどにセラミック部品を検討 研究に参加されているソン講師は、2007年にベトナム・ダナン工科大学工学部電子情報工学科を卒業後、同年から2011年まで同工科大学電子情報工学科講師を務めた。2013年に長岡技術科学大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻に留学し、2016年3月に同工学研究科材料工学専攻を卒業、「耐環境用途に向けた複合酸化物およびその複合材料の材料設計と創製に関する研究」で工学博士の学位を取得した。2016年4月から2018年3月まで、同大学原子力システム安全工学専攻特任助教を務めた。2018年4月から2020年3月まで釧路工業高等専門学校機械工学科助教、2020年4月から講師に昇任した。 天田財団の2020年度「奨励研究助成(若手研究者枠)」に「レーザーを利用したセラミックス材料の亀裂に対する局所自己修復技術の開発」が採択されている。ロケットエンジンノズルをはじめ、広範に使用されているセラミックス材料は靭性が低いため、使用中に亀裂が発生することがある。そのためレーザーで自己治癒する方法が提案されている。 ソン講師は、所定の位置にレーザービームを照射できる機能を持つレーザー加工機を用いて、亀裂位置にレーザーを正確に照射し、高速度で自己治癒効果を向上させる研究を行っている。効果の状況は、電子顕微鏡(SEM)の画像によって確認できるが、レーザー加工機は亀裂の位置と長さを画像情報として直接読み込めないため、画像処理技術を用いて亀裂の位置情報を抽出し、レーザー加工機が解読できる入力データに変換するソフトウエアの開発も行っている(図❷)。 高橋教授は、ソン講師の研究内容がロケットエンジン部品に使われるセラミック部品の開発研究にも応用できると考え、共同研究を進めておられる。

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