❶❶❷❷松野准教授の研究室メンバーの集合写真❸❸❶せん断切り口遅れ破壊評価試験治具/❷小型引張試験機/❸小型手動曲げ試験機デメリットはありますが、企業が求めているものを理解し提案できるので私は一度企業に入って良かったと思います」。 「研究者のおかれる状況はきびしいものがあります。年収や労働時間だけ見ると、これで本当に若い人材が来るのかと思うほどきびしいですが、『じゃあ待遇を良くして』と簡単に対処できることでもありません。私は企業から大学に移って年収などはかなり下がりましたが、それほど不満は感じていません。理由は大学の方が仕事の自由度が高く、自分の好きな研究ができるからです。若手にはそうしたメリットをPRしていくしかないのかなと思います。塑性加工の研究者はあまり多くありません。『研究者が増えてほしい』と漠然と願うのではなく、自分自身が増やすための努力をしていかなければならないと思っています」(松野准教授)。9温間域における中Mn鋼温間成形手法を開発 本研究は3段階に分けて進められる。第1段階では中Mn鋼の変形部そのものの局所的な変形抵抗とその応力3軸度感受性を明らかにする。これにより、降伏伸びとセレーションを引き起こす局所的な変形抵抗を明らかにする。 第2段階では中Mn鋼の温間域における局所的な真の変形抵抗と静水応力の感受性を測定する。特に引張試験時のくびれ以降(大変形域)におけるセレーション挙動を対象とし、その際の局所的な変形抵抗を明らかにする。 最終段階では温間域における中Mn鋼温間成形手法を開発する。同定した材料モデルとそのパラメーターを使った温間成形シミュレーションを活用し、温度調整によるひずみと応力分布制御の観点から、成形時の割れ抑制に有効な金型内の温度分布履歴と、遅れ破壊抑制に有効な温度分布履歴を導出し、実際の成形に展開することを目指す。 「中Mn鋼はすごく異質な存在です。降伏伸びや、セレーション発生の際には多数のせん断帯が発生するという特徴があります。従来、こうした材料特性は悪い影響だとされ、中Mn鋼は注目をされてきませんでした。しかし、この現象が材料の延性を増しているということが見えてきました。その原理を解明してうまく活用することができれば超高張力鋼板の成形性も向上でき、加工精度も向上するはずです」。 「本研究では、この加工技術や材料の最適特性の評価、数値計算について研究を進めていきます。現在、九州大学や東北大学の先生や自動車メーカーなどと相談しながら研究を進めています」(松野准教授)。企業を経たからこそ真のニーズが理解できる 松野准教授の研究は企業と連携したテーマが多い。企業から相談を持ち掛けられることが多いのは松野准教授自身が民間企業で勤務し、真に企業が求めるニーズを理解しているからこそだろう。 「企業出身の研究者とアカデミックな研究者ではニーズ感がちがうように思います。われわれは現場のニーズを知っているのでそれを踏まえた提案をできるところが強み。その代わり突き抜けたところのない工業的な研究テーマとなります。学術的な面が重視される場合には審査が通りにくいという日本の強みは「現場のものづくり力」 「塑性加工の研究は海外――具体的にいうと中国・韓国が強く、論文の本数では日本は圧倒的に負けています。ただ日本は企業が強い。企業研究者の研究に関しては論文に出てきていないものもあると思うので一概には比較できないと思います。それに技術的なレベルなどに関しては以前から欧州などが高いです。では日本の強みは何かというと、最先端の技術・技能をものづくりに生かせること。中小企業を中心とした現場の力が強いのでそこをちゃんと大事に守り育てていければまだまだ世界とも戦えると私は思っています」と松野准教授は語っている。
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