天田財団ニュース No12
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❶❶❷❷❶デジタルマイクロスコープ/❷万能試験機/❸山中教授の研究室メンバーの集合写真❸❸ 「また、神戸大学の学生の時に、ある講義の中で『人生は一度しかない。その一度しかない人生で何か一つ世の中に残せる仕事を探しなさい』という言葉を聞いて目が覚めました。私も研究室の学生には伝えるべきことはきちんと伝えるようにしています」と語る山中教授は、研究にも教育にも積極的でイニシアチブを発揮されている。課題と考えています。さらに、多軸応力試験を利用できれば良いのですが、塑性加工には摩擦状態などの不確定要素が多くあるので、それらを加味して材料モデルを同定し、プレス加工シミュレーションの高精度化につなげていきたいと思っています」。7材料モデリング方法の確立が必要 今回、重点研究開発助成に採択された研究のテーマは「データ同化を用いた金属板材の材料モデリングと超高精度プレス加工シミュレーションの実現」。山中教授はこの研究の目的について次のように述べている。 「塑性加工技術は、日本のものづくり産業を支える重要な技術です。とくに自動車産業を背景として、金属板材のプレス加工技術の高度化は、必須の研究課題と位置付けられています。しかし、日本では労働力人口の減少が加速しているため、デジタルトランスフォーメーション(DX)の波に乗って、プレス加工技術のデジタル化やAI、IoTなどの活用が急務となっています」。 「とくに加工分野では、センサーデータを活用したプレス加工制御、加工不良検出、金型内部の見える化が長年研究されてきました。これまで研究されてきたセンシング技術を生かすことができれば、塑性加工分野はプロセスインフォマティクスで他分野を牽引する大きな可能性を秘めていると思います。コンピュータシミュレーションの利用は活発であり、プレス加工の仮想化が進められています。今後求められるのは、超高精度なプレス加工シミュレーションを短時間で実現する技術の確立です。そのため、プレス加工シミュレーションに使用する降伏関数とそのパラメーター(材料モデル)を簡易的にかつ正確に同定する材料モデリングの方法の確立が必要となっています」。 「材料モデリングの方法は、これまでにさまざまな方法が提案されています。多軸応力試験を利用する方法などもありますが、特殊な試験装置や高度なスキルが必要とされるため、より利用しやすい環境を構築することなどが今後の超高精度プレス加工シミュレーションを開発 山中教授は本研究の目標について「本研究ではベイズの定理に基づくデータ同化を用いることで、これらの課題の解決を目指します。データ同化は、気象予報や台風進路予報の精度向上のために実用されており、シミュレーションと実験を統計理論で結びつけることで、実測できない状態の推定や未知パラメーターの推定に対して有効性が問われています。『塑性加工分野』ではデータ同化の適用例は非常に少ないのですが、『センシング技術が発展した塑性加工分野』ではデータ同化に使用できる実測データが豊富に存在しています。これらを利用することで、材料モデリングの簡易化やプレス加工シミュレーションの超高精度化の実現を目指しています」と説明している。 さらに研究の最終的な目標に関しては「データ同化を活用した材料モデリング手法と超高精度プレス加工シミュレーション技術を開発し、その技術を産業界で利用しやすいかたち(ソフトウエアやウェブアプリケーション)にして公開・提供することを目指しています」と述べている。 具体的にはデータ同化を用いて同定した材料モデルを用いて、複雑形状の金型を用いた成形シミュレーションを実施し、同じ金型を用いた成形加工実験の結果と比較。これにより、データ同化で同定した材料モデルを用いれば、加工状態の推定精度が向上できるこということを検証により証明するという。プレス加工シミュレーションの高度化に必要な材料モデリングなどに対して、データ同化を活用した研究は世界的に見ても極めて数が少ない。 そのため本研究は、塑性加工分野でのデータ同化の適用限界を明らかにする意味でも、独創的な研究となっている。

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