天田財団ニュース No12
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❶❶❷❷❶実験装置について説明する寺川教授/❷寺川研究室のメンバーの集合写真隔での高繰返周波数パルス列に着目すると温度上昇を得ることも可能である。寺川教授らは、これまでの研究成果と知見が分子結合切断と再結合による炭化および導電性を有する黒鉛質炭素の生成を誘起する上で極めて有用であると考え、超短パルスレーザと物質の相互作用物理の知見を活用することで、2018年に従来は難しいとされていたPDMSを前駆体としたLIG作製に世界で初めて成功した。さらに、高い柔軟性、伸張性、光学透明性を持つPDMSの特長と高結晶性かつ高導電性のグラフェンの特長を生かして微小モーションセンシングを実験実証した。 最近は、同技術を発展させてウェアラブルな微小・高感度圧力センサーを作製するとともに、研究成果を再生可能資源に展開し、天然資源由来のセルロースナノファイバーを前駆体として高導電性LIGの生成に成功した。11次世代エレクトロニクスの実現に資する レーザプロセッシング技術 今回、助成が採択された研究テーマは「高繰り返しフェムト秒レーザパルス照射による高結晶性かつ高導電性微細構造の直接描画」。この研究では、これまでの研究成果である「高結晶性、高導電性、高速作製可能な超短パルスレーザ誘起グラフェン(UP-LIG)」につき、サステナブル・エレクトロニクスを含めた次世代エレクトロニクスの実現に資するレーザプロセッシング技術として確立させることを目標に掲げている。 レーザを照射する「だけ」という一見すると粗く単純な方法によって、根底となる物理と技術的知見を細やかに探求し、自由自在に機能付与ができる技術として高度化させ、高い導電性、柔軟性、伸張性を兼ね備えたデバイス作製に実利用できるようにする。そして本研究の助成期間である2024年3月までに、コア要素技術であるUP-LIGの基盤確立を目指す。 本研究では高い光子密度による分子結合の切断と高繰返周波数パルス列による温度上昇を独立して制御し、また、超短パルスレーザ照射により極微小領域に生じる高圧状態を考察することで、高結晶性かつ高導電性のUP-LIGの生成原理と過程を明らかにする。先端科学技術と人をつなぐレーザ加工 寺川教授は「私の研究室は『先端科学技術と人をつなぐレーザ加工』というキーワードで研究を行っています。第4次産業革命、Industrie 4.0、DX、SDGsなどのキーワードを旗印にした潮流は、すでに産業界においてさまざまなところで具現化しつつあります。これらのキーワードに共通し、その根幹となるのは製造技術であり、ものづくりです。レーザプロセッシングは、すでに産業界において製造工程のさまざまな段階に導入されています。レーザは高い制御性をともなって非接触かつ超細密な加工を行えるため、製造における高度化と極めて高い親和性を持っています。レーザによる切断、溶接、熱処理はもちろんのこと、多光子過程の利用を含めた多彩な相互作用はあらゆる分野において活用されています」。 「私の研究室では、3Sをキーワードとしたレーザプロセッシングの研究を行っています。3Sとは、Soft(stretchable、shrinkable)、Small、Sensitiveの頭文字です。高強度光と物質の相互作用の物理を軸として、金属や透明誘電体などに加え、バイオマテリアル、細胞、ハイドロゲルなどを利用した研究を進めています。研究では、萌芽的段階からスタートして新しい応用・概念を示すことに特に注力しています。レーザを使うことにより、これまでにないエレクトロニクスデバイス、アクティブインプラント、センサーを実現するための基盤技術を創出し、将来はインテリジェント化したハイテク工場で『やわらかいもの』が高速に生産される――そんな未来を思い描いています」と語っている。研究に対する強いイニシアチブを持つ 慶應義塾大学の電気情報工学科は早くから講座制を取りやめていて、専任講師に採用されると独立した研究室を持つことができる。その代わり、研究費の手配や研究室で研究する学生の育成もすべて自分のイニシアチブで行うことが求められる。そのため、研究の自主性は極めて高いが、研究室の運営能力も問われる。そのなかで、寺川教授は天田財団の重点研究開発助成に2度採択されるなど、民間から研究費を集めるための産学共同研究にも積極的に取り組んでいる。

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