天田財団ニュース No12
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慶應義塾大学・寺川光洋教授とつとして検討されているが、高分子材料の多くは耐熱性、あるいは耐薬品性が高いとは言えない。 その一方で、従来のエレクトロニクスに用いられてきた金属を利用した導電性構造の作製技術をそのまま用いることは難しいとされている。材料表面を導電性に改質する方法として、前・後処理工程を必要とせず基板表面を熱分解により黒鉛化させる方法が知られているが、炉を用いた方法では微細構造を作製することは困難である。さらに、近年では持続可能社会の実現に向けて枯渇性資源ではなく再生可能な天然資源由来の材料を基板として利用する気運が高まり、新しい分野としてサステナブル・エレクトロニクスを実現するための材料改質技術が希求されている。10研究室訪問4慶應義塾大学 理工学部電気情報工学科寺川 光洋 教授重点研究開発助成での採択は2度目 慶應義塾大学 理工学部 電気情報工学科の寺川光洋教授の研究テーマが、天田財団の2021年度「重点研究開発助成(課題研究)」のレーザプロセッシング分野に採択された。寺川教授が同財団の重点研究開発助成に採択されるのは今回が2度目。 1度目に採択された研究では、超短パルスレーザにより金属イオンの還元と高分子材料の重合を同時に行うことで、伸縮性の支持体と内部の金属構造から成る複合構造を作製することを目的とした。エラストマーであるポリジメチルシロキサン(PDMS)と銀イオンの混合溶液にフェムト秒レーザを照射することでPDMSと銀の複合細線構造の一括作製を試みるとともに、作製構造の圧力センシングへの応用を試みた。さらに、当初は予定していなかった成果ではあるが、PDMSのレーザ改質により導電性のSiCが生成することを発見するなどの成果を出した。サステナブル・エレクトロニクスの実現に貢献 フレキシブルエレクトロニクスでは、軽い、薄い、折り曲げ可能などの特長を持つデバイスが一部実現し、さらなる発展が期待されている。同分野において、基板に用いる高分子材料の表面に導電性を付与することがコア要素技術のひ材料表面のレーザ改質によるレーザ誘起グラフェンの生成 材料表面へのレーザ照射により生成するレーザ誘起グラフェン(LIG)は、レーザビームを走査するだけで屈曲・伸張可能な材料表面に任意の形状の導電性構造を描くように配置することが可能であり、材料の直接改質による簡便さと構造の空間自由度において優れている。レーザ照射による高分子材料の炭化は1980年代には現象として知られていたが、フレキシブルエレクトロニクスの台頭とともに2014年頃より関連研究の論文が急増している。これまでにLIGを用いた電気二重層キャパシタ、圧抵抗特性を活用したモーションセンサーなど、さまざまな応用研究が報告されている。 しかし、LIGは前駆体、すなわちレーザ照射を行う材料としてポリイミドを用いた場合のみ高い導電性を示すとされ、屈曲可能ではあるが伸張が難しい材料のみにおいて実験実証されていた。一方で、伸張性を示すPDMSへの導電性付与の期待は高かったため、ポリイミドを前駆体としていったんLIGを作製し、生成したものをPDMS表面に転写する方法が採られていた。 超短パルスレーザは高い光子密度により非線形光学効果を得ることが容易であり、熱緩和時間よりも短い時間間フェムト秒レーザによる高結晶性かつ高導電性微細構造の直接描画サステナブル・エレクトロニクス実現にも貢献する

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