天田財団ニュース No11
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徳島大学大学院 社会産業理工学研究部・富田卓朗准教授化を起こすこともできるので、従来の加熱方法では不可能であった組成を持つ合金系でのハイエントロピー合金の実現につながってくる可能性もある。8研究室訪問3徳島大学大学院 社会産業理工学研究部富田 卓朗 准教授ハイエントロピー合金の生成を目指す 徳島大学大学院 社会産業理工学研究部の富田卓朗准教授は、天田財団の2020年度の「重点研究開発助成(課題研究)」にレーザプロセッシング分野で採択された。助成研究のテーマは「フェムト秒レーザー誘起ハイエントロピー合金のコンビナトリアル探索」となっている。 この研究は、電力制御を行うパワートランジスタの半導体材料として注目されている窒化ガリウム(GaN)基板に形成した積層金属膜に対し、フェムト秒レーザを照射することで、非熱力学的過程による新奇合金相――特に、ハイエントロピー合金の生成を目指す。 ハイエントロピー合金は5種以上の元素が等量含まれる合金として定義されており、過半を占める主要元素が存在しないことが特徴となっている。従来のハイエントロピー合金の作製法はすべてバルク作製を狙ったものであるが、今回提案するフェムト秒レーザを用いた非熱的な溶融・急速凝固法では、マイクロメートルスケールの局所的な改質が可能であり、難加工材料でもあるハイエントロピー合金のマイクロマシンへの応用などが期待できる。 また、フェムト秒レーザ特有の強力な光電場によって合金生成したHEAの生体親和性を評価 この研究では、透明材料側から金属材料にフェムト秒レーザ光を入射し、金属材料に高温・高圧状態を作製、そこからの緩和を引き起こすことで、新奇合金相の創成を目指す。試料はGaN基板上に金属材料を10nm程度ずつ数層にわたって積層して蒸着する。先行研究によって金属に対する光の侵入長である数十nm程度の改質が起こっていることがわかっているので、数十nm以内に金属を積層させることで、積層させた金属を合金化することができる。そのうえに保護膜として銅を蒸着する。 次に、GaN側からフェムト秒レーザを照射し、蒸着膜の非熱的合金化を促進することでハイエントロピー合金(HEA)を生成する。レーザ照射にあたっては、透過型電子顕微鏡による観察を行うため、顕微光学系を用いた照射を行う。透過型電子顕微鏡観察では、専門である徳島大学 社会産業理工学研究部の岡田達也教授が協力する。 さらに、生成したHEAの生体親和性を評価するために銅保護膜を除去して露出させたHEA上に骨系細胞を凝着し、その特性を評価することで、フェムト秒レーザ誘起HEAの生体親和性を評価する。この評価を行うことで、将来は医工連携により再生医療などへの展開も考えている。そのため、フルエンスと照射パルス数を試料面内で2次元的に変化させた試料を作製し、そのうえに骨系細胞を凝着する。細胞の選定については岡山大学 医歯薬学域の井澤俊准教授が協力する。 また、生体親和性の評価にはより迅速に評価を行うため、細胞のラマン分光測定を用いる。ラマン分光測定に関しては、可視および深紫外のラマンスペクトル測定に精通した秋田大学 理工学部の山口誠准教授が協力する。新たな構造形成を引き出すフェムト秒レーザ誘起によるハイエントロピー合金の生成物質に光を照射した際に生じる緩和過程から

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