❶❶❶残留オーステナイト特性を調査するためのX線回折装置/❷水素の存在状態を分析する昇温脱離分析装置(水素分析装置)とプレス機/❸引張変形中に鋼中から放出された水素を検出するための引張り試験機と水素分析装置❷❷秋山研究室のメンバー。1番左が秋山英二教授、左から5番目が味戸沙耶助教。右から3番目が北條助教、1番右が小山元道准教授❸❸する必要がある。特に、自動車用高強度鋼板として期待される変態誘起塑性鋼(TRIP鋼)においては、プレス成形時に残留オーステナイト(γ)のひずみ誘起マルテンサイト変態が生じ、微細組織が変化する。曲げ加工、深絞り加工、張り出し加工、穴広げ加工時に鋼板に付与される塑性ひずみ量には分布があるため、微細組織内の残留γと変態したマルテンサイト分布は一様ではない。 そのため、プレス成形した高強度低合金TRIP鋼の残留応力分布、塑性ひずみ分布、微細組織変化(残留γとマルテンサイト分布)、遅れ破壊との関係を明確にし、高強度低合金TRIP鋼の遅れ破壊特性を系統的に評価する方法を確立する必要がある。 本研究では曲げ加工、張り出し加工、および穴広げ加工後の遅れ破壊試験によって遅れ破壊特性を評価する方法を確立する。物質の原子・分子レベルでのかたちや機能を調べることができるSPring-8の放射光X線回折測定を使い、それぞれのプレス成形法によって生じる応力、塑性ひずみを定量化すること、各プレス成形部品の遅れ破壊後の破壊形態の詳細な解析をすることによって、プレス成形法のちがいによらず遅れ破壊特性を評価する技術を提案する。 低合金TRIP鋼の遅れ破壊特性は鋼中に存在する残留γおよび、残留γがひずみ誘起変態して生じたマルテンサイトの存在がキーとなる。そこで、プレス成形による残留γのひずみ誘起マルテンサイト変態挙動、低合金TRIP鋼への水素添加による残留γの水素誘起マルテンサイト変態挙動を調べ、自動車用鋼板の遅れ破壊特性評価項目を明確にする。 SPring-8の放射光X線を用いて、高強度低合金TRIP鋼のプレス成形部品の応力分布および塑性ひずみ分布を測定し、応力、塑性ひずみ量と遅れ破壊の関係を調べる。 曲げ加工、張り出し加工、穴広げ加工のそれぞれの部品の遅れ破壊発生部の応力、塑性ひずみ量、微細組織と水素量の関係を明確にし、プレス成形様式が異なっても同一の基準で遅れ破壊特性を評価できる評価法を提案することによって、プレス成形を施した高強度低合金TRIP鋼の遅れ破壊特性評価技術を確立する。 こうした研究を通して、北條助教は遅れ破壊特性におよぼす応力、塑性ひずみ、水素量、微細組織(残留γの変態挙動)の影響を明らかにする。これらの因子を適切に制御して遅れ破壊を発生しない新たな超高強度低合金TRIP鋼の組織制御技術の確立、および革新的な塑性加工法の提案を行うことを目指している。7SPring-8の放射光X線を用いた分析も活用 また、X線回折法を用いて塑性ひずみ部の残留γ分布を詳細に測定し、プレス成形(曲げ加工、張り出し加工、穴広げ加工)部品の残留γ分布を明らかにする。さらに、SEM-EBSDにより、プレス加工部品の微細組織(残留γ分布)を明らかにし、高強度低合金TRIP鋼の残留γのマルテンサイト変態量、残留γ存在状態と遅れ破壊発生の関係を明確にする。研究成果で産業界に貢献する 北條助教は「将来的にはこの研究の成果によって導き出した遅れ破壊特性評価法を標準化し、鉄鋼メーカー・自動車メーカーが統一された遅れ破壊特性評価法を用いることになれば、遅れ破壊特性に優れた超高強度鋼板の開発が進みます。そうなると超高強度鋼板の低コスト化・高付加価値化が期待できます」と力強く語ってくれた。
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