❶❶❷❷大津研究室のメンバー集合写真。後列中央が大津教授❸❸❶マシニングセンタ/❷万能材料試験機/❸学生との実験の様子本あるいは数本の棒状工具を、成形したい形状の等高線に沿って移動させることにより板材を成形する方法である。鋼板やアルミニウム板などは室温での加工ができるが、アルミニウム合金やマグネシウム合金などの室温では延性が乏しい材料の成形は難しい。そこで、通常のインクリ法で工具を高速回転し、摩擦熱による加熱と金属材料の動的再結晶を利用して、成形限界を大幅に改善した「摩擦攪拌インクリメンタルフォーミング」を開発し、加工機の製作やさまざまな材質の金属板の加工条件・成形性・成形精度などについて研究を行ってきた。スト迅速生産を得意とするインクリ法だが、一部例外を除き、数分から数時間の実加工時間に対して1回あたり数日から数週間かかるシミュレーションで試行錯誤しながら工具経路を修正するため、メリットはほとんどない。 そこで、インクリ法を用いて製品形状を高精度で成形できる工具経路を生成するAIシステムを開発する意義が生まれる。開発するAIシステムには製品の目標形状を入力し、工具経路を出力させる。学習データとして工具経路と成形形状を用いる。通常のシミュレーションやAIでは、原因である工具経路を入力し結果である成形形状を求めるが、本研究ではこれらを逆問題としてとらえ、結果である成形形状を入力し、原因である工具経路を出力する。入力データと出力データを入れ替えることによって、インクリ法における工具経路を入力すると、成形形状を出力する順解析のAIシステムも開発する。 本研究では、工具経路と成形形状を学習データとして、ニューラルネットワークに学習させて、成形精度の低下分を補正した工具経路を生成することで、高精度に成形する。 世界を見ても本研究のように逆問題として加工条件の生成にAIを利用するものはほとんど見られず、インクリ法にAIを利用している報告はほとんどない。非常に画期的な研究となっている。5工具経路を生成するAIシステムの開発 今回、天田財団の「重点研究開発助成」に塑性加工分野で採択された「インクリメンタルフォーミングにおける高加工精度の工具経路を生成するAIシステムの開発」では、インクリ法を用いて、製品形状を高精度で成形できる工具経路を生成するAIシステムを開発することを目的としている。 一般的なプレス加工などでは、成形精度を向上させるために金型形状を修正する。金型形状の修正には有限要素法などのシミュレーションが用いられており、形状を変更して成形結果を計算で求めることを繰り返して金型形状を最適化している。この計算には数十時間かかるが金型形状の修正には金型の製作時間や製作コストが発生するため、数日かけてシミュレーションによる試行錯誤を行う価値がある。 一方、インクリ法では、板材は棒状工具との接触部での局所変形が広範囲に移動することで全体が成形される。しかし、板材は棒状工具とフレームにしか接触しないため、形状拘束が弱く、成形後に板材をフレームから取り外して必要に応じてトリミングした後は、弾性回復や残留応力によって大きく変形するため、成形精度は低かった。成形精度を高めるためには、トリミング後に製品形状になるようにシミュレーションして工具経路を修正する必要がある。 シミュレーションは局所変形を広範囲に移動させるように計算する必要があり、工具経路を修正して成形形状を計算することを繰り返すと多くの計算時間が必要となる。低コ
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