❶❶❷❷研究室集合写真。後列左から5番目が荒川特任助教、その左隣が先進理工系科学研究科の菅田淳教授兼工学部長、前列右から4番目が先進理工系科学研究科の曙紘之教授❸❸❶レーザ装置/❷レーザパターニングによる溝形状の変化/❸溝形状とピッチ間隔のイメージを複合材、エラストマーほかに展開しています」。 ただ、目的が定められた研究が優先されるため、目的以外の研究を行う費用が出ないという問題がある。そのため、荒川特任助教も博士前期課程から関わってきた材料強度や疲労限界などに関連する研究を続けるためには研究費をみずからで調達しなければならなかった。科研費などの採択がきびしいなかで、今回の天田財団の助成研究に採択されたことの意味は大きいという。15100μm100μm溝が浅く間隔が狭い溝が深く間隔が広い 荒川特任助教はこれまで機械工学の中でも、金属疲労や破壊力学を専門として研究、産業界に直結する研究を数多く遂行している。それだけに、「産業界のニーズに応えつつ、研究者として大切な物事の原理原則を追究する姿勢を忘れない研究者となり、その結果を国内外に発信していきたい」と語っている。ピッチ間隔低アスペクト比高アスペクト比:堆積物マルチマテリアル化対応の接着接合体の研究 助成が採択された「レーザパターニング表面処理による高耐久性能を実現する接着接合接手の開発」の目的について荒川特任助教は次のように語っている。 「産業界ではマルチマテリアル化が注目を集めています。また、現在の接合技術においてはスポット溶接やレーザ溶接が主流ですが、異種材料接合を実施する際には材料間同士のミスマッチ(材料物性の異なりによるもの)によってうまく接合できない場合があります。そのため、マルチマテリアル化を達成するためには、これらの接合手法から脱却する必要があります」。 「そこで、私が着眼した方法が接着接合です。接着接合体の静的強度および耐久性能に関する研究報告例は数多く存在しますが、ほかの接合法に比べて強度が圧倒的に低いことが問題としてあります。自動車業界での実施例が少ないのもこうした課題があるからだと思います。しかし、マルチマテリアル化を達成するためには、接着接合法の技術を刷新していく必要があると思います」。 「こうした背景を受け、機械的締結力を向上させるため、被着材にマイクロオーダーの溝をレーザパターニング加工する技術によって、接着強度の向上を目指します。また、溝のピッチ間隔および形状を変更して、高耐久性能を有する接着接合体の開発にも尽力したい。材料としては自動車用鋼板のSPCC590Yと純アルミニウムを使用します。これらを一液硬化型エポキシ樹脂で接合。試験は油圧式サーボパルサによって実施、耐久性能を実験的に検討する計画です」。工学研究や教育の将来に向けた課題 荒川特任助教は今年で30歳。すでにご結婚され、父親にもなられている。 「大学院博士前期課程を修了したときに、博士後期課程を受講して博士を取得して研究者を目指すことを考えましたが、収入がなく、学費を払い続けなければならない生活への不安もあって断念、企業に就職しました。しかし、結果として諦められずに大学院に戻りました。最近、博士課程に来る学生が減っているのも、研究生活への不安があるからです。国や産業界で何か対策を考えないと博士課程に来るのは、中国をはじめとした海外からの学生ばかりになります。最近は、工学系の研究室の教授、准教授が中国の研究者、というところも増えています。日本の工学研究や教育の将来が心配です」と荒川特任助教は熱く語った。
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