天田財団ニュース No11
11/20

❶❶❶LPしていない場合とした場合のCoCrの疲労破壊回数の比較/❷体内での脊柱固定ロッドへの負荷をモデルとした疲労試験の概念図❷❷平田・青野研究室の集合写真。中央列右から3番目が青野准教授、その左隣が平田敦教授と桃園聡助教先生とは研究のポイントポイントで連絡を取り合い、医学的な見地からコメントやアドバイスをいただいています」。 「今回の研究に関しては今年度中に曲げ加工後の湾曲したロッドの疲労強度が1.5〜2倍向上すると示すことが目標です。その研究結果を持って東邦大、医療機器メーカーと相談のうえ、できるだけ早く治験ができる環境を整えていきたい。LPはクリーンで危険性がない工法ですが、医療関係者に十分納得いただけるデータが必要です。いきなり人間に適用できないのでまずは人間の体内の環境を模擬して実験し有用性を示します。そこで十分な有用性があると証明できれば、次はメーカーさんと協力して実際の患者さんに適用する――これが最終的なゴールになります」。 「われわれは実験室の引張試験機などを使って有用性を示すのですが、人体内の複雑な動きなどを完璧に模擬できるわけではありません。そこで治験にたどり着くことが一番高いハードルかなと思っています」。 「『医療』を行うにも医者の技術だけですべてが完結するわけではなく、使用する『ツール』がなければ医療技術の発展はあり得ません。機械工学の技術が医療の発展に大きく寄与することは間違いないと考えています」。面で若い人たちが研究者を目指せない状況があると思います。この点については安心して研究を続けられるような環境整備を国としても考えていただきたい。一方で、企業で経験を積んだのちに研究者になるような多様なキャリア選択の自由がもっと広がると良いと思います」。11LPしていないCoCrLPしたCoCr可動固定具脊柱固定ロッドLP処理部モデル化回転支持(ピン)単軸疲労試験機(引張荷重付与)研究者へのルートはひとつではない 青野准教授が所属する平田・青野研究室には現在、平田敦教授、青野准教授、桃園聡助教のほか、修士課程の学生が14名、学部4年が4名の計21名が在籍している。博士課程の学生がいない件について伺うと、青野准教授は次のように応えてくれた。 「『修士から博士課程に進んで研究者を目指す』というルートがすべてではないと思います。機械工学を学ぶ学生の多くが『メーカーでのものづくり』や『社会に直結する仕事』に対して非常に魅力を感じています。企業の研究部門に入ってから研究が面白くて大学に戻ってきたり、産学共同研究の過程で博士を取得する場合もあります。企業を経て大学の研究者になられた方々の話を聞くと、人脈や知識の面で企業経験があることは大きな財産であると感じます」。 「日本で、修士から直接博士課程へ進学して研究者を目指す学生が増えないのは、研究費や待遇、安定性などの誰もが性別を気にせず選択できるように 「ここ数年、大学でも学生や職員の女性割合を増やすといったことを強く言われるようになりましたが、その考え方には少し違和感があります。仕事で女子高生と接する機会が増えましたが、詳しく話を聞くと、化粧品工学や工業デザインをやりたいといった希望が多いです。私も娘を育てていますが、できるだけ色眼鏡なく育てようと思っても、可愛いものが好きだったり、お洒落がしたかったり、自然とそのような性差や個性が発現するのだなぁと感じます。だから単純に数字だけを増やそうとするのではなく、自身の興味や好きなものから自由に進路を選べるようになりさえすれば、それが一番良いことではないかと思っています」。 「ただ私自身、研究者になってから男性と同じようにはいかないことにジレンマを感じる機会が増えました。これに関しては『大学が』ということではなく、『社会のシステム』として家庭を持つ女性が働くことに対してもっとできることがあるのではないかと感じます。今回、コロナ禍の影響でリモートが取り込まれるようになったことは、女性が仕事と家庭を両立していくうえでは良い変化かもしれません」(青野准教授)。

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る