東京工業大学 工学院機械系・青野祐子准教授締結するため、手術中にロッド材を背骨に合わせて曲げ加工するが、このときロッドには残留応力が残ったままの状態で使用される。ロッドには体重や運動による負荷が常にかかるため、術後数年以内に湾曲部の引張の残留応力側を起点に体内で折損する事例が増えている。 これに対して今まではロッドの数を増やすなどの対応策を取っていたが、固定や重さに関して課題は残っていた。また症例の多くが高齢の女性であることから、何度も再手術するわけにはいかないといった事情もあった。 本研究は、機械工学の観点から残留応力を緩和しロッドの疲労寿命が延びる方法を追求する。方法としてレーザピーニング(以下、LP)を採用した。LPは水中に設置した材料表面に短パルスレーザを照射し、発生するプラズマの衝撃力により材料表面に圧縮残留応力を付与し、疲労強度の向上や応力腐食割れ感受性の低減をはかる手法である。LPは水とレーザのみで実施可能なため、クリーンである。また、再現性の高い処理が可能なため、信頼性が高い。 青野准教授は、LPは医療現場での応用や医療材料との親和性が高く、応用する価値があると考えている。しかし、これまでにLPをこのような用途に応用した例はない。 本研究では、ロッドに用いられる医療用高機能金属材料へのLPの適用と、その効果を材料科学・材料力学の両面から評価し明らかにする。曲げ加工後のロッドにLPを施し、表面の引張残留応力を緩和。曲げ加工後の湾曲したロッドに対し、体内を模擬した曲げ方向の負荷を印加する疲労試験を実施し、提案手法の有効性を示すことを目指す。10研究室訪問4東京工業大学 工学院機械系青野 祐子 准教授機能性材料とレーザを組み合わせて研究 東京工業大学 工学院機械系の青野祐子准教授は、天田財団の2020年度の「一般研究開発助成」にレーザプロセッシング分野で採択された。 青野准教授は電機メーカーに就職することを目指し、大学では機械工学を専攻。次第にすべてのものづくりの根底である加工技術や機械材料といった分野に魅力を感じていった。2007年3月に東京工業大学 工学部 機械科学科を卒業。2011年3月に同大学院 総合理工学研究科メカノマイクロ工学専攻 博士課程を修了した。 2011年4月に東京工業大学大学院 理工学研究科機械物理工学専攻の助教となり、機能性材料とレーザ加工を組み合わせた研究を行うようになった。2016年4月には組織変更で東京工業大学 工学院 機械系の助教、2017年4月には准教授になった。レーザピーニングでロッドの疲労強度を向上 助成が採択された研究は「レーザピーニング処理による脊柱固定ロッド材料の疲労強度向上」。 近年、脊柱側湾症や脊柱後湾症に対し、生体親和材料であるCoCr製の脊柱固定ロッド(以下、ロッド)を背骨に直接締結し、矯正する手術が行われている。湾曲した背骨に機械工学の技術で医療の発展に大きく寄与 本研究には東邦大学 医学部整形外科学講座の和田明人准教授が協力し、工学と医学の2つの視点から研究を進めている。青野准教授は今回の研究について次のように語っている。 「東邦大から東工大の産学連携本部に技術相談が持ち込まれ、コーディネーターから私の研究とマッチするのではないかとご紹介いただき、医工連携に発展しました。和田「レーザピーニング処理による脊柱固定ロッド材料の疲労強度向上」工学と医学の観点からロッドの疲労寿命を改善する
元のページ ../index.html#10