❶❶❶実験で使用するフェムト秒レーザ/❷学生に実験についての指導を行う伊藤助教(右)❷❷研究室で学生とともに実験を行う伊藤助教(右手前)室に在籍する人数は合わせて31名となっており、工学系研究科の中では人数の多い研究室となっている。 「博士課程の学生は自分の研究テーマを持っているので基本的に教育的な指導はともないませんが、修士課程や学部の学生には丁寧な指導が必要です。そのため、学生の指導を行う時間と自分自身の研究に費やす時間の比率は7:3となっています。今後はもう少し自分の研究に使える時間を増やしていきたいと考えています」(伊藤助教)。 2020年3月以降は新型コロナウイルスの影響で講義の大半がオンラインに変わり、緊急事態宣言発令中は研究スタッフが構内へ入場することも大幅に規制された。伊藤助教はそのさなかにもコンピュータシミュレーションを活用して研究を継続した。しかし、さまざまな加工現象を解明するためには、リアルな実験も欠かすことはできないため、研究におけるサイバー空間・フィジカル空間の両立が大変だったという。シミュレーション結果を合わせ込むことはできるものの、加工形状を予測することができないという課題があった。15透明材料のフェムト秒レーザ加工における課題 伊藤助教が天田財団の「奨励研究助成(若手研究者枠)」に採択された研究は「透明材料のフェムト秒レーザ加工時の温度分布の超高速精密計測」である。 電子機器や光学機器のさらなる高性能化のために、ガラスやダイヤモンドをはじめとした透明材料に微細精密加工を施す技術が求められている。それらの材料は、硬脆性と透明性を備えているがゆえに加工が困難である。 しかし、フェムト秒レーザを用いるとエネルギーを吸収させることができるため、微細加工を施すことが可能なツールとして注目されている。 しかしながら、透明材料のフェムト秒レーザ加工における光吸収は非線形的な複雑過程を経るため、加工後の形状を予測することが困難となっている。従来から励起過程を推測し、フィッティングパラメータを適切に設定することで、温度分布を予測することが試みられているが、温度分布が実測された例がないため、シミュレーションに使われている仮説の妥当性が評価されていない。そのため、加工形状に加工形状の予測実現への道 「今回採択された研究では、加工時の温度分布を超高速かつ精密に計測する手法の開発を試みます。刻々と変化する温度分布を実測することで、レーザ照射によって光吸収が生じる際の非線形過程の定式化を目指します。定式化によって、加工条件から光吸収量、温度分布、そして加工形状の予測実現への道が拓けると考えています」。 「また、ナノ秒スケールの超高速計測技術を開発すると同時に、ミリ秒スケールの計測と複合することで、マルチ時間スケール計測技術も開発できると考えています。これによってレーザ加工時の温度履歴を明らかにし、励起過程の解明に挑戦したい」。 「同じような研究がフランスや、ドイツのフラウンホーファー研究機構でも、進められています。日本はレーザ研究に関しては欧州の産官学連携に立ち遅れています。我々のような若手研究者が学会や産官学の垣根を超えたオープンテクノロジー的な発想で、共同研究を行っていかなければいけないと考えています」(伊藤助教)。 伊藤助教は熱い思いでレーザ工学の将来を見ている。
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