❶❶❷❷2020年度伊藤研究室のメンバーの集合写真❸❸❶微小部X線回折装置を用いた鋼材表面の残留応力測定/❷溶接継手への摩擦攪拌加工の様子/❸山本助教と研究室の学生の居室(新型コロナウイルス対策のため、飛沫防止用カーテンが取り付けられている)く受け入れている。現在は新型コロナウイルスの影響によりこうした活動は積極的には行われていないが、例年は研究室にも外国人研究者や大学院生が数週間から半年ほどの期間、滞在するという。 「小規模な研究室なので、学生と一緒に実験をしたり、学生に自分の研究を手伝ってもらう場面が自然と多くなります。しかしその分、良い実験結果が出たときには喜びを共有でき、それらの経験を通じて学生の成長を直に感じられる機会も多いので、大学にいる人間としてとてもやりがいを感じられる環境だと思っています」と山本助教は語る。13研究の目的と可能性について FSWはイギリスの溶接研究所TWI(The Welding Institute)によって開発された比較的新しい接合技術で、開発された年は山本助教の誕生年と同じ1991年だという。 「着目しているのは摩擦攪拌中に鋼とツールの界面で起こっている現象と、その過程で鋼側に置き去りにされたツール構成元素の存在です。ツール摩耗をともなった摩擦攪拌中には著しい塑性変形と元素の移動が同時に起こっているため、局所領域でのメカニカルアロイングとして捉えることができ、ツール材と鋼材の組み合わせによっては材料特性改善のためのポジティブな結果へ転換できる可能性を秘めています」。 「摩擦攪拌中のツール摩耗によって鉄鋼材料へ供給された種々の元素が、その後の組織形成と材料特性に与える影響を解明するとともに、鉄鋼材料の高強度化・高機能化を達成するための新規表面合金化技術を確立することを目標としています。最終的には溶接継手のような局所的に材料組織が劣化した領域を強化できる技術へと発展させていきたいと考えています」と山本助教は本研究の目的とその可能性について語っている。溶接機構学分野の研究室 山本助教が所属する接合科学研究所 接合機構研究部門 溶接機構学分野では、材料科学的な視点で微細組織観察・構造解析を行い、それらの結果に基づくモデリングとシミュレーションを通じて溶接部・接合部が有する機能および力学的特性の支配機構を明らかにしている。研究を通して欠陥がなく、かつ優れた特性を有する接合界面を得るための材料設計の基礎の確立と新しい接合法の開発、および接合構造体の特性評価へとつなげることを目指している。 溶接機構学分野には2021年3月現在、伊藤和博教授、三上欣希准教授、兼任の高橋誠講師に山本助教を加えた4名のスタッフと、博士前期課程1、2年が各2名、学部4年生が2名の計10名が在籍している。 また、同研究所ではアジア諸国の大学や研究機関との国際交流も積極的に進めており、海外からの研究者を数多溶接・接合業界の発展に貢献したい 摩擦攪拌加工に関する研究は山本助教が学生時代から続けてきた研究テーマであり、知見・知識が蓄積されてきている。山本助教は「このプロセスにさらなる可能性を感じている一方、これまでに習得してきた組織解析技術を生かして、材料科学的な視点から十分に検討されてこなかった溶接施工における課題や、新材料の溶接・接合現象の解明にも挑戦し、溶接・接合業界の発展に貢献していきたい」とも話されていた。 自身の研究だけでなく、学生への研究指導・教育にも対応しなければならず、「今は毎日が忙しい」という。そのような中でも山本助教のポジティブマインドは変わらないようだ。
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