天田財団ニュース No9
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8ム合金といった熱処理型の析出強化型アルミニウム合金を接合する場合、レーザ溶接のような溶融溶接法ではなく、リベット締結のような機械的接合法や摩擦撹拌接合といった固相接合法が用いられることが多い。しかし、リベット締結の場合は重量が増加し、摩擦撹拌接合の場合は処理速度が遅いことからレーザによる高速溶接の要求が強い。 そこで、本研究では高パワー・高品質のレーザを用いることによって溶接を可能とする短パルスレーザ誘起圧力波支援高速レーザ溶接法の開発を目指す。大阪大学大学院工学研究科の佐野智一教授大阪大学大学院 工学研究科マテリアル生産科学専攻佐野 智一 教授高パワー・高品質のレーザを用いた溶接を実現 天田財団の2019年度「重点研究開発助成(課題研究)」にレーザプロセッシング分野で採択された大阪大学大学院 工学研究科 マテリアル生産科学専攻 生産科学コース加工物理学領域の佐野智一教授の研究テーマは「析出強化型アルミニウム合金の高強度継手を実現する短パルスレーザ誘起圧力波支援高速レーザ溶接法の開発」。 最近は自動車や鉄道車両のみならず、橋梁や航空機の分野でも軽量で比強度が高いアルミニウム合金の需要が増加、それにともない接合技術としての溶接へのニーズが高まっている。 しかし、アルミニウム合金は鉄鋼材料と比べて反射率と熱伝導率が高く、溶接中に酸化しやすいことなどから、一般的に溶接が困難とされている。さらに、溶接後には、いったん溶融して凝固した溶接金属と、そのまま熱影響を受けて変質した熱影響部が存在する。構造材料として用いられる析出強化型アルミニウム合金の場合、これら溶接金属と熱影響部の力学特性は母材と比較して著しく劣化する。 したがって2000系アルミニウム合金や7000系アルミニウ「温度場」だけでなく、「圧力場」も取り入れる 析出強化型アルミニウム合金の高速レーザ溶接中に、溶接部近傍にナノ秒レーザ誘起圧力波と、フェムト秒レーザ誘起衝撃波を印加することにより、溶接金属の結晶粒を微細化し、さらに熱影響部にピーニング効果を付与、溶接部の力学特性を向上させ、溶接部からの破壊が生じない高強度な溶接継手を形成することができる。通常、金属組織をつくり込むときに考慮される「温度場」だけでなく、これまで無視できるほど小さかった「圧力場」を新たに取り入れることによって、これまでにない新しい金属組織制御法の基盤となる新しい学理を構築する。 この学理をもとにナノ秒レーザ誘起圧力波とフェムト秒レーザ誘起衝撃波を「圧力場」として利用することによって、割れのない高強度な溶接継手を実現する高速レーザ溶接法を開発する。 本研究では、プロセス1「溶接金属の強度を向上させるレーザ溶接プロセス」、プロセス2「熱影響部の強度を向上させるレーザ溶接プロセス」を開発。また、プロセス1とプロセス2の成果を組み合わせることによって、プロセス3「溶接継手全体の強度を向上させるレーザ溶接プロセス」を開発する。 この新しい学理は、金属の凝固を考える際に「温度場」だけでなく、これまで無視できるほど小さかった「圧力場」を独創的な基礎研究に基づく応用研究が必要日本が再び力を取り戻すためにはアルミ合金の高強度接合を実現する独創的なレーザ溶接プロセスを開発

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