天田財団ニュース No9
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15合金をはじめとする新たな材料についても、同様のアプローチで研究を進めている。 天田財団の2015年度「一般研究開発助成」に採択された研究では、熱間加工における動的変態の発現を見出し、熱間圧縮試験により結晶粒径1µm以下の「ナノε組織」の形成と圧縮試験前の約2倍の高硬度を初めて示した。2. 生体用Co-Cr-Mo合金の焼鈍材に段階的に塑性ひずみを発生させ、耐食性および不動態皮膜への影響が顕在化するひずみ量を基礎的に明らかにする。また、圧延などの塑性加工プロセスを用いて同様の試験を行い、得られた知見をより実用的なプロセスへ展開させる方法について検討する。 塑性加工に係る学術的研究の側面からは、中性子回折やDICといった最先端の定量組織解析手法を用いて変形組織を評価し、耐食性との関係を明らかにする点が特色。また、熱間加工プロセスを実用化する上で必要不可欠な腐食挙動の学術的基礎を構築することができる。これにより、従来の炭化物析出を利用する方法に代替する高強度化手法を確立し、人体に対してより安全なインプラントの開発を通して生体医療分野で大きく貢献することができる。 研究成果については、生体用Co-Cr-Mo合金に限らず、チタン合金など、ほかの生体用金属材料やステンレス鋼をはじめとしたインフラを担う構造用金属材料の組織設計や研究開発に応用が可能になる。❶❶❶電気化学測定による耐食性の評価/❷電気炉による試料の熱処理/❸自動研磨機による組織観察用試験片の作製❷❷走査型電子顕微鏡を用いた試料の組織観察❸❸生体医療分野で大きく貢献する 高強度化した生体用Co-Cr-Mo合金の整形外科インプラントへの適用については、熱間加工などにより生じたひずみや組織変化が耐食性におよぼす影響を明らかにする必要がある。しかし、同合金の耐食性や生体適合性におよぼす組織の影響に関する研究は少なく、系統的な理解が得られていない。 本研究では、「塑性加工を用いて組織制御することにより高強度化した生体用Co-Cr-Mo合金に対し、これらの組織変化が耐食性にいかに影響をおよぼすか」に焦点を当て、以下の2つの課題に対応することを計画している。1. 種々の加工条件にて生体用Co-Cr-Mo合金の熱間加工を行い、得られた試料に対して結晶粒径、転位密度、集合組織、構成相等の観点から加工組織の定量的な評価を行う。加工組織の定量的な解析を行った試料に対して、耐食性の評価を行い、組織解析結果との対応関係を明らかにする。 毎日が新しい発見の連続 東北地方は新型コロナウイルス感染症の感染者が少なかったこともあり、学校では緊急事態宣言が解除された6月から密にならない人数での対面授業が始まった。森准教授が受け持つ学生は専攻科2年、1年が各2名、本科の5年生、4年生が各4名の計12名。 森准教授は「コロナ禍の教育・研究は、思うように進まないことも多く、指導することの難しさを痛感しています。その一方で学生から学ぶことも多く、そのことが私自身の研究へのモチベーションアップにつながっており、毎日が新しい発見の連続です。若手研究者は研究資金が少ないので、天田財団の助成はありがたいです」。 「生体用インプラントのほとんどが海外から輸入されています。私たちが研究している生体用Co-Cr-Moが世界の医療現場で使われるようにもっとPRしていきたい。これまで企業や大学で学んできたことを材料科学の発展や実際に役立つ優れた材料の開発に活かし、社会に貢献したいと考えています」と語ってくれた。

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